中華民国建国102年双十国慶節・馬英九総統祝辞
馬英九総統と周美青夫人は10月10日午前、総統府前広場で開催された「中華民国中枢曁各界慶祝102年国慶大会(中華民国政府および各界による建国102年祝賀大会)に出席し、馬総統は「確固たる方向性、団結・奮闘、国家の新局面を切り拓く」と題する演説を行った。
馬総統の談話の全文は以下の通りである。
確固たる方向性、団結・奮闘、国家の新局面を切り拓く
本日は、我々が熱愛する中華民国102年の国慶節(建国記念日)であります。我々がここにおいて国家誕生の日を祝うことは、言うまでもなく、先人の努力に感謝するものでありますが、さらに重要なのは、我々が未来に向って踏み出していこうとすることであり、我々の未来は、我々自身が選択するものであります。さらに我々が、民主化の道において、理性的で包容力のある公民社会を選択するのか、それとも邪推し対立した政治的な内部消耗を選択するのか?両岸関係では、ウィンウィンとなる両岸和解を選択するのか、それとも緊張し衝突した両岸対立を選択するのか?国際経済においては、自由貿易の問題に対処する勇者になるのか、それとも保護主義の傘下に隠れた弱者になるのかと我々自身に問いかけるものでもあります。これらはいずれも国家発展の鍵となる問題であり、国民全体が対処しなければならない鍵となる選択でもあるのです。
国家戦略:再生し、発展の道を見出して、活路を歩む
これらの問題と選択に対処するには、総統である私が将来性のある実務的な国家戦略を提起する必要があります。この戦略は、国内に対しては、我々の経済、政治、社会が再生しなければなりません。対外的には、台湾は熾烈なグローバル経済競争力の中で、発展の道を見出す必要があります。複雑な国際政治の環境の中においては、活路を歩んで行かねばなりません。簡単に申せば、この国家戦略は、我々の国家が再生し、発展の道を見出し、活路を歩み出して行こうとするものであります。
平和の常態化、交流の制度化
過去において、台湾は対抗と閉塞を選択してきたことから、台湾海峡と朝鮮半島は東アジアの2つの火薬庫となっていました。現在、政府の戦略は自由および民主主義の価値観を堅持する一方で、中国大陸と和解および協力を推進しています。5年間にわたる努力により、現在の台湾海峡はアジア地域で最も平和的な海峡、最も繁栄したルートとなりました。
両岸の人々は同じ中華民族であり、両岸関係は国際関係ではないのです。5年余の間、両岸は「『1つの中国』の解釈を各自が表明する」という「92年のコンセンサス」の基礎の下、19項目の協議に調印し、海運および航空輸送の直航便開通、中国大陸からの旅行客の台湾訪問、司法相互協力、経済協力などの交流を実現しました。この中には、3年前に調印した「両岸経済枠組協議」(以下、ECFA)と2013年6月に調印した「両岸サービス貿易協議」も含まれています。4日前に、蕭万長・前副総統が中華民国(台湾)首脳代表の肩書で、中国大陸の指導者、習近平氏とインドネシアで開催されたアジア太平洋経済協力(以下、APEC)の場で会談しました。さらに、行政院大陸委員会の王郁琦・主任委員と中国大陸の国務院台湾事務弁公室の張志軍・主任も会見し、双方はお互いの官職で呼び合いました。これはすべて、両岸が「現実を直視し、お互いの存在を否定せず、共にウィンウィンを創出する」という基礎の下に切り開かれた成果であります。現在、両岸は絶えず意思疎通を図り、相互の政治信頼関係を強化すべきであり、両岸交流を絶えず拡大深化させ、国民の福祉を増進させるべきであります。また同時に、両岸両会(台湾の財団法人海峡交流基金会、中国大陸の海峡両岸関係協会)が相手側の地で弁事(事務)機構の相互設置を推進し、人々のために行政サービスを強化し、両岸協力、中華振興のために共同で新しい頂点をさらに極めていくべきであります。
国民は世界に出向き、国防には精鋭且つ実務的な改革
政府の平和戦略は、国際社会において普遍的な評価を得たのみならず、台湾のために、実際の利益と尊厳をも獲得しました。中華民国は友好国との友誼は盤石なものであり、米国、日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国、オーストラリア、ニュージーランド、欧州連合(EU)各国およびその他、国交のない国々との関係も絶えず強化されています。また、我が国はビザ免除あるいは到着ビザ措置の待遇を受けている国(地域)は、最近また1つ増え、134の国(地域)に達しました。これは、我が国の国民が常時訪問する国あるいは地域の中で、その98%がビザ申請手続きを行う必要がなくなったことを表しています。
今年は、「活路外交」において実り多い年になったと言うことができ、2月から10月まで、ほぼ毎月、具体的な成果がありました。今年2月には、台湾は米国と『特権、免税権および免責権に関する協定』(改訂版)に調印し、双方は相互に派遣する関係者に対し、より多くの保障が与えられることになりました。3月には、台湾と米国は6年間延期されていた『貿易および投資枠組協定』(TIFA)の調印に向けた交渉が再開され、進展が得られました。4月には、台湾は日本と『台日漁業協定』を調印し、両国において40年余にわたった漁業紛争の問題が解決され、「主権は譲歩せず、漁業権の大前進」の目標を達成したのです。5月には我が国は、「世界保健機関(WHO)年次総会」(WHA)に5度目の出席を果たし、同総会において、我が国の二国間会談の回数と国際的な認知度を大幅に高めました。7月には、我が国はニュージーランドと『台湾・ニュージーランド経済協力協定』(ANZTEC)を調印しました。これは、我が国が国交のない国と調印した初の自由貿易協定であり、きわめて大きな意義があります。8月にはフィリピンと、広大興28号漁船の争議(台湾漁船の広大興28号が我が国南方の排他的経済水域[EEZ]でフィリピン公船に銃撃された事件)を解決し、台湾漁民のために正義と権利を勝ち取ったのでした。9月には、台湾は特別ゲストとして、国際民間航空機関(ICAO)の年次総会に42年ぶりに出席しました。さらに10月、我が国政府がAPECの首脳会議出席のため派遣した蕭・前副総統が、米国、中国大陸、日本などAPEC首脳会議に出席した首脳あるいは首脳代表と二国間会談を行い、『環太平洋経済連携協定』(TPP)など地域の経済統合参加のチャンスをより一層創造しました。これらから、中華民国は現在では、国際社会におけるピースメーカーであるのみならず、国際協力の推進者ともなっているのです。
平和戦略にはリスク意識を持たなければならず、平和的な環境が整ったことにより、我々はより一層懸命に国防改革を推進することができるのです。我々の堅実な国防は、「専守防衛、効果的な抑止力」という戦略の基礎に支えられています。この60年余にわたり、国軍は台湾の安全保障のために費やしてきた犠牲と貢献は、我々が評価し尊敬するに値するものであります。この数年来、台湾は専守防衛的武器の継続的な購入、兵士の志願制の実施開始、我々の科学技術による戦力強化により、台湾の国防の安全をより一層保障していく所存であります。
今年7月に陸軍下士官の洪仲丘さんの不幸な事件が発生した後、政府は直ちに法律を改正し、軍事裁判を一般司法裁判へと移すと共に、全面的な軍の構造改革を行いました。政府は軍人の人権を保障する必要があるのみならず、軍内部の規律も維持する必要があり、また同時に国軍の戦力向上もしていかなければなりません。我々は我々の子供たちが安心して軍務に就き、専門的な技能を学ぶようにするのみならず、軍人の士気を再び鼓舞し、軍人の栄誉感を回復して、国軍が国民に尊敬されるようにしていくことを私は公約いたします。
台湾経済の新しい位置付け:自由経済アイランド、基幹的なバリュー・チェーン
台湾経済は現在、グローバル化と地域統合といった2重の問題に直面しており、我々は改めて位置付けを行う必要があります。それらは台湾を国際経済の枠組の中で基幹部品と精密設備のサプライヤーにしようとするものであり、同時に、サービス業の刷新的な新モデルを切り開くものでもあります。また一方で、グローバル競争に積極的に参加し、世界からの投資を誘致し、台湾の商品とサービス輸出の市場を切り開き拡大し、台湾が真に「自由経済アイランド」となるようにしていく所存であります。
我々は現在、産・学の力を統合し、積極的に10項目の工業基礎技術を開発し、それらが、国内に根付き、産業における未来のイノベーション向上の基礎となることを推進しております。我々は多くの企業が「中堅企業」に転換するよう、より一層積極的にサポートしていくものであり、これは基幹技術を発展させていくのみならず、国際的なバリュー・チェーンの「影の勝者」を一歩ずつ確立していくものであります。
台湾を「自由経済アイランド」にしようとするには、地域の経済統合に全面的に参入する必要があり、また一方では「自由経済モデル区」を迅速に推進する必要があります。現在、台湾が直面しているのは、「(参入するのが)必要かどうか」の問題ではなく、「台湾はすでにその他の国々よりも遥かに遅れている」という問題なのです。2012年の統計によると、100米ドルあたりの貿易額の中で、自由貿易協定(FTA)により獲得できる免税あるいは優遇額は、シンガポールが63米ドル、韓国も34米ドルあり、我々は以前、わずか0.14米ドルであったのが、ECFA発効の3年後にようやく4米ドルにまで増えることになりますが、依然としてシンガポールや韓国からは遥かに下回っています。皆さん、政府が素早く行動しなければ、追いつけることができるでしょうか?
今年6月、台湾が中国大陸と調印した「両岸サービス貿易」は、台湾のサービス業の力を引き上げることができ、地域経済統合への参入の条件を創出するものであり、さらには我が国の国民の就業の機会を増やすこともできるのです。例を挙げて述べれば、嘉義の電子商取引業者「東京著衣」で、1980年代生まれのブランド・ゼネラルマネージャー、周品均さんは、「私は『両岸サービス貿易協議』を大いに支持している。それは、台湾の政府が電子商取引業者のために、全世界において未曾有の優遇待遇を獲得し、より多くの私のようなネットオークションの関係者が、中国大陸で開設した公式ウェブサイト上で、自身のブランドで全世界にセールスできるからです」と私に話したのでした。
さらにもう一例を挙げると、台北市のネットゲーム業者「樂陞科技股份有限公司」の許金龍・董事長も私に、「台湾のゲームコンテンツを中国大陸側で輸入する際に、過去においては審査、認可まで6カ月以上の期間が必要であり、無期限のものさえあったが、『両岸サービス貿易協議』により審査、認可にかかる期間が2カ月へと大幅に短縮された。これは中国大陸市場に進出し大いに試してみたいと希望している台湾のゲーム業者にとり、カンフル剤となるようなものだ」と述べていました。
また、皆様もよくご存じの飲食業者「85度C」は、9年前に永和市にある小さなコーヒーショップからスタートし、台湾で成功した後、香港、中国大陸、米国、オーストラリアなどに進出し発展しています。今年8月末の時点で、世界に744店舗を設け、その内、台湾は340軒、中国大陸には395軒、米国およびオーストラリアに9軒の店舗があります、同社の呉政学・董事長は私に、「世界に店舗展開する際の膨大な人材のニーズをまかなうために、私は台湾に「85学院」の開設を準備し、8,000名の台湾人幹部を育成し、それにより台湾に還元している」と説明しました。
総統として、私は必ずや若い人たちの夢をかなえる支援をしてまいります。これらの勇敢な若い人たちは私と同様に、台湾の無窮のチャンスを見たのです。台湾にはこうしたサービス業の創業者が多数おり、彼らは早くから準備を整えていたのです。彼らには大きく羽ばたき、思う存分夢を実現してもらおうではありませんか!
また、「自由経済モデル区」については、現在すでに実施段階に入っています。行政院は12項目の行政法規の規制緩和を推進し、海外への委託加工の税関事務の審査と検査システムを大幅に簡略化し、モデル区のインテリジェント物流の新しい運営モデルを一歩ずつ形成しているところです。最近、上海で「自由貿易試験区」がスタートし、我々にとり競争相手がまた1つ増えました。そのため、政府は開放する速度をさらに加速させる必要があります。行政院は現在、モデル区の中に、金融業の財産および資産管理を含む、その他の産業の活動も盛り込むことを積極的に検討しているところであり、これは正しい方向性であります。国内外を問わず金融と経済活動について、我々は自由化の範囲をより一層拡大し、台湾が「自由経済アイランド」へと邁進するよう加速しなければなりません。我々はこれらの自由化措置をその他の産業推進法案と連動させ、この2年内に台湾に3,000億元(約1兆円)の投資を誘致し、4万5,000人の就業の機会をもたらす所存です。
私が特に申し上げたいのは、規制を緩和し開放すれば、台湾の若い人々には大きな活躍の場が得られ、希望を持てるようになるということです。現在はグローバル競争の時代であり、労働力の運用は以前と比べより一層国際化し、柔軟性のあるものとなっています。政府は以前よりも若者の投資についてより一層重視しています。政府は現在「青年就業促進方案」の計画を強化しているところであり、それにより若者の就業力を引き上げ、若者による起業および就業の理想実現を支援しています。実際においても近年、台湾の若い人々のアイデアは国際的な発明およびデザインなどのコンテストにおいて、次々と好成績を収めており、台湾はクリエイティブ教育と産学協力面においてすでに成果を上げていることが見てとれます。大規模な開放措置、大きな才能、大きな活躍の場、大きな希望、これらは若い人々に対する政府の公約であります。
政府は将来の台湾を、3つのハイレベルな特徴ある自由経済アイランドにしてまいります。それは、国民の生産力の高さ、製品の付加価値の高さ、さらに重要なのは、国民の所得と福祉もそれに伴い高くしていくことです。このような台湾であれば、グローバル企業が第一の投資先にしたいと選択することになり、台湾の人々にとっても、これが幸福な社会となるのです。我々に開放措置をとる度量と勇気がなければ 台湾がこうした幸福を得ることはできなくなるでしょう。
一部の人々は、開放措置により余波をもたらすであろうと杞憂していますが、経済競争力は一貫して台湾の強力な力であり、企業の柔軟性と強靱性、世界の各種機構によるランキングにおける台湾の成績アップは、台湾経済の体質がきわめて強靭であることを証明しております。政府もこの余波に対応するためには、万全の準備を行う所存であります。我々はむやみに卑下する必要はなく、競争を恐れていては経済が萎縮するのみであり、勇敢に競争してこそ経済の繁栄を創造することができ、これが台湾経済の構造転換をする上で唯一の突破口となるのです。
公民社会を迎え、社会的弱者への思いやりを拡大
我々は経済をグローバルに対応していこうとしているのみならず、我々の文明もまた世界に伍していくものであります。台湾社会の文明については、私の心の中に2つの指標があり、1つは公民社会であり、もう1つは社会的弱者への思いやりです。
総統としての私の責任は、民主化の道において、民主主義の信念と文化を引き続き進化させ、それにより公民社会を確立することです。過去において、我々は学習の中で、民主主義を確立しましたが、現在、我々は民主主義の中で、公民社会を実践しなければなりません。具体的に申せば、成熟した公民社会とは、それが示す姿が「ハイレベルな民主主義」であり、憲政主義の原則の下、人権が保障され、法治が徹底し、司法が独立し公正であり、それによってこそ公民社会が力強く発展することができるのです。この理念の下で、総統たる私の最も重要な任務はすなわち、憲法を遵守し、憲政を実行することであります。
私は台湾社会に対して大いに自信があります。我々が求める公民社会とは、多元的な包容性のある価値観、理性的に政治を問う文化、友好的で思いやりのある公民、積極的に対応する政府というものであります。公民と政府は対話を通して、社会の進歩を共同で推進し、社会の改革を実践していくことができ、政党間の理性的な競争をも促すことができるのです。これには、遠回りや苦痛を伴う学習プロセスがあるかもしれませんが、それによって得られるものは、幸福な台湾の実感ということになるでしょう。
どのような人々が台湾を訪れても、至る所でボランティアを目にし、人々には真心があることに気がつくはずです。これは、台湾の最も感動的な風景です。社会には愛があり、政府も真心があります。我々は『社会救助法』を改正し、66万人近くの経済的弱者の人々を支援の範疇に入れました。また、2011年度より5歳児の学費免除を全面的に実施し、支援が必要な家庭には育児手当を支給、無給の育児休暇者への手当を提供しており、現在までに数十万人の人々がその恩恵を受けています。さらに重要なのは、政府が国民年金保険および労保年金制度をスタートし、社会保険に未加入であった375万人および労働者962万人がいずれも年金保障を受けることができるようになったことです。
台湾において、我々は社会的弱者を思いやり、これまで惜しみなく手を差し伸べ支援してまいりました。我々は活力にあふれ尚且つ社会的弱者を思いやる公民社会を構築しているところであり、こうしてこそ、台湾が華人世界の手本となり、全世界における誇りとなれるのです。
次世代への公約
現在はまさに我々が団結し奮闘している時期であります。我々の目標は明確且つ確固たるものであり、次世代に開放措置による繁栄の経済環境、理性的で思いやりのある公民社会、平和的に発展する両岸関係、友好的な協力を行う国際空間を残そうとするものです。これこそが台湾の発展の道と活路なのであり、我が国の国家戦略なのであります。
我々は道の遠きを恐れず、方向性がないことのみを恐れ、困難は恐れずとも、意思が堅固でないことをおそれるのみです。我々が方向性を確固たるものとし、勇敢に前に歩み出しさえすれば、希望はすぐ眼の前にあるのです。
さあ皆様、声高らかに唱和しましょう。
自由民主万歳!
中華民国万歳!
台湾がんばれ!
ありがとうございました。
【総統府 2013年10月10日】