中国の軍事拡張と台湾の防衛戦略①
「二〇〇四年国防報告書」概要
「二〇〇四年国防報告書」概要
九・一一米中枢同時テロで世界の安全保障環境は厳しさを増し、さらにアジアでは中国が軍事拡張を加速した上に「反国家分裂法」制定を具体的日程に乗せ、ますます緊張を高めている。そうした中に台湾が如何にして国防力を高めるかは、台湾のみならず日本の安全保障ならびに世界の平和にとってきわめて重要な核となる要素を含んでいる。これについて国防部は昨年十二月十四日に「二〇〇四年国防報告書」を発表した。全八編二十六章からなる膨大なものだが、アジアと台湾に関する主要な部分をここに紹介したい。
第一篇 安全環境と軍事情勢
第一章 国際安全情勢
今日グローバル化により国際安全保障環境は複雑さを増している。米中枢同時テロのあと、米国を中心に各国が反国際テロ行動を強化しているが、民族や宗教間による闘争、領土紛争、資源争奪戦などが激化し、国際テロや軍事科学技術の拡散、国境を越えた経済犯罪や麻薬取引も深刻化し、当面の国際安全保障環境はいっそう厳しいものとなっている。
一、全般的な戦略環境
冷戦終結後、米国は圧倒的な国力をもって世界唯一の超大国となった。その米国は国際テロと大量破壊兵器拡散の防止に尽力する一方、軍事のトランスフォーメーションを進め、各地域および各国との軍事協力を強化し、各地域の安全と世界の軍事バランス維持の目的を達成しようとしている。アジア太平洋地域は、中国が「平和的台頭」と経済建設を主要政策とし、現在のところ具体的な問題は起こしていない。中東ではフセイン政権崩壊後、米軍はまだテロ組織を効果的に封じ込めず、イスラエルとパレスチナの紛争もなお継続している。欧州ではNATOとEUが東欧に範囲を広げ、地域の安全保障に主要な役割を担い、ロシアとも政治、経済交流のほか軍事交流も深め、地域の平和を維持しようとしている。アフリカではアフリカ同盟(AU)の成立後、各国が連携し種族間紛争や宗教紛争鎮静化のほか、経済立て直しと貧困やエイズの撲滅にも取り組むようになった。
〔アジア地域〕
日本、韓国、オーストラリア、東南アジア各国は米国と同盟協力関係を結び、国際テロや大量破壊兵器の拡散防止に努力している。中国はイラク戦争、北朝鮮問題、南シナ海紛争などを背景に国際的影響力を強化し、また宇宙開発にも大きな進歩を見せ、アジアでの大国としての地位を築き、さらに大きな力を見せつけようとしている。
米国は中国やロシアとの関係に安定を保ち、国際テロや核拡散防止に協力を取り付けようとする一方、アジア太平洋地域における軍事的優勢を維持するため、在日および在韓米軍のトランスフォーメーションを進め、潜在する危機への抑止力を強化しようとしている。
台湾海峡問題では、米国は平和維持が国益にかなうと見なし、台湾の民主化支持、中国の軍事的脅威反対という一貫した政策をとり、危機発生の防止に尽力している。
二、衝突発生の危険地帯
世界に危険発生地帯は多いが、その中でも朝鮮半島、台湾海峡、南シナ海、南アジア、中東などが最も偶発的な衝突が発生しやすい地域と見られる。
〔朝鮮半島〕
朝鮮半島には不確定要素が多く、アジア太平洋地域で最も危険な箇所となっている。二〇〇二年十月に北朝鮮は核兵器開発を再開し、米国は軍事的圧力と外交交渉でその政策の放棄を迫っている。二〇〇三年四月に三カ国会議(米国、北朝鮮、中国)が開かれ、その後も同年八月、二〇〇四年二月、六月と六カ国会議(米国、日本、韓国、中国、ロシア、北朝鮮)が三度にわたって開かれたが、北朝鮮の核開発停止にも専門委員会の設立にも合意が得られず、この問題の解決はまだ遠い。朝鮮半島の平和のため、今後ともこの問題の解決に国際社会は努力を続けることになるだろう。
〔東南アジア〕
東南アジアでは各宗教が林立する中に紛争も深刻化を増し、「イスラム巡礼団」「モロ・イスラム開放戦線」「アブサヤハ・グループ」などを含む各派の多くがアルカイーダと連絡がある。米中枢同時テロのあと、テロ組織の活動は東南アジアにも広がり、その内インドネシアとフィリピンが最も深刻である。それら組織の攻撃目標は軍事基地、大使館、金融機関、発電所、観光地など多岐にわたり、安全確保がますます困難となっている。
マラッカ海峡をはじめ各国際海峡では管理が手薄で海賊行為や密輸行為などが頻発し、正当な経済行為に大きな脅威をもたらしている。二〇〇四年七月二十日にシンガポール、マレーシア、インドネシアの三カ国がマラッカ海峡の安全に関するメモランダムに調印し、共同で同海峡の巡視を開始し、海賊やテロを取り締まることとなった。
〔南アジア〕
南アジア地域の主要国はインドとパキスタンであり、両国は宗教紛争のほかに長期にわたる領土紛争を抱えているが、二〇〇四年一月に開催された第十二回「南アジア・サミット」のあと、両国関係には大きな改善が見られた。この一方、中国がインドとの国境紛争によりパキスタンとの友好関係を保ち、インドと対立していた。だが中印関係は「中国インド関係の原則と全面的相互協力宣言」に調印して以来、急速に関係は好転し、共同軍事演習を実施するまでになっている。将来的にも、インド、パキスタン、中国の三カ国関係の好転が、南アジアの安定維持に有益なものとなろう。
〔中東〕
パレスチナ問題がイスラエルとアラブ諸国との紛争の主因となっている。米国の主導により中東平和路線計画が進められているが、パレスチナ過激派であるハマスとイスラエルの衝突は頻発し、同計画は目下頓挫している。米国はイラク・フセイン政権の排除が中東の安全保障、政治改革、人権の発展に大きく寄与すると見ていたが、その後テロ組織の活動は高まり、イラク情勢は混沌としている。イランとアラブ首長国連邦との間にも島をめぐる領土紛争があるが、軍事衝突の可能性は少ない。
〔南シナ海〕
南シナ海の諸島は南洋航路の重要な戦略的位置にある。さらに石油、天然ガス、漁業、鉱産物の資源が多く、海底探査の技術が向上するとともに各国の関心も高まってきた。だがこの地域は境界が未定であったり、複雑に入り組んだりしており、それが国際紛争の主因となっている。この水域には総計百九十二の島嶼が存在し、台湾が太平島と東沙島を領有しているほか、中国が七島、ベトナムが二十七島、フィリピンが九島、マレーシアが五島、ブルネイが一島にそれぞれ主権を主張している。
三、今後の危険要素
現在の国際軍事情勢は、地域紛争の激化、武器の拡散、科学技術の急速な発展、戦争形態の変化、自然環境の悪化などにより先行きが不透明なものとなっており、今後は以下の面での紛争が懸念される。
①政治面‥民族、宗教間での対立が持続する。分離意識、地域紛争、領土主権、経済水域の重複などの問題が安全に対する脅威を構成する。
②軍事面‥大量破壊兵器の拡散が、将来の安全に重大な問題となっている。米国は「先制攻撃」戦略を国防安全戦略の主要原則とし、これが世界の軍備拡張を誘発している。各国の安全保障の認識には差があり、紛争処理方法への認識もそれぞれに異なり、この差が衝突を生み、国際安全保障への脅威を形成している。中国の有人宇宙船「神舟五号」の実験成功は、各国の宇宙に関する競争を誘発し、もう一つの強国間の争議を惹起する可能性がある。
③経済面‥グローバル化が誘発した貧富の差が拡大すれば、反グローバル化運動が先鋭化し国際犯罪(特に金融面)も巧妙にかつ頻発し、その処理を誤れば世界の政治、経済、社会に潜在的脅威を構成するだろう。
④国際テロ:米国を中心とした反テロ行動により、九・一一以来、大規模テロは発生していないが、テロ組織撲滅には至っておらず、今後とも世界に対する重大な脅威を構成し続けるだろう。
⑤環境保護と疫病:SARSや鳥インフルエンザの流行、生態異変などが今後とも重要問題となるだろう。
【国防部 2004年12月14日】