中国の軍事拡張と台湾の防衛戦略③
「二〇〇四年国防報告書」概要
第三章 中国の国防政策と軍事動向
中国は多年にわたる高度経済成長を続ける中に、軍事費を絶えず増大させて軍事力を大幅に高め、大国としての態勢を整えてきた。地域における軍事大国として、中国は中央アジアから南太平洋島嶼国まで軍事、経済、政治面の影響力を求めるほか、パキスタン、ミャンマー、北朝鮮などとの軍事同盟関係を強化し、積極的に東南アジアでカンボジア、ラオス、マレーシア、タイなどを取り込み、影響力をアジア太平洋全域に拡大しようとしている。軍事力をさらに高めるため、中国軍は「ハイテク技術での局地戦争勝利」の軍事戦略を立て、兵員数を縮小、効率化増進などの政策を進めている。二〇〇四年一月には「IT活用の作戦と訓練の改革」を重点に据え、研究と実験を重ね、海空軍のレベル向上と連合作戦能力を強化しようとしており、台湾の安全に対する脅威は日増しに増大している。
一、国防政策
中国の国防政策は、国家利益に沿って制定され、「二〇〇二年国防白書」にその主要目標を次のように示している。
(一)経済建設を中心として総合国力を増強し、社会主義制度を完全に堅持し、社会の安定と団結を保持し、長期的平和の国際環境と良好な周辺環境を打ち立て、主権の統一と領土の完璧保全を維持する。
(二)国防を強化して侵略を防ぎ、分裂を阻止して統一を実現し、クーデターを防止して社会の安定を維持し、国防建設を強化して国防と軍隊の現代化を実現し、世界平和を維持して侵略の拡大に反対する。
二、軍事戦略
中国は世界の軍事改革と国家戦略の需要に対応するため、経済発展の基礎の上に国防の現代化を全面的に推進しており、それを「中国の特色ある軍事改革」として部隊の機械化とデジタル化を進め、画期的な現代化を達成しようとしている。戦略としては「積極防衛」という曖昧な表現を用い、先制攻撃はせず国家主権や領土が侵された場合に反撃するとしているが、戦術的には敵意が判明すれば戦いを主動するとしており、中国の攻勢の本質を示している。このことから中国軍は脅威に直ちに反応するという態勢を示すだけではなく、武力を背景とした高圧的態度をもって自己の安全な環境を構築しようとしており、その要点は次の通りである。
(一)戦略目標を台湾海峡と南シナ海に置き、「新時期における積極防衛の方針」を示し、ハイテク化による武器の更新と人材の育成を加速し、三軍連合作戦の能力を高め、機動力と即応能力を強化する。
(二)イラク戦争の状況を教訓として全面的な軍事改革を積極的に進め「遠方攻撃、短期決戦」を戦略要綱とし、機械化とデジタル化によって局地戦争での短期勝利を目指す。戦術面では「敵生産力の破壊」と「ポジションの奪取」をもって政治目的を達成する。
(三)戦術ミサイルと海空軍力をもって威嚇し、軍事および非軍事手段によって目的を達成する。現段階においては、第二砲兵隊(ミサイル部隊)と海空軍の拡充と地上部隊の機械化を重点的に進める。武器の更新は自主開発と輸入を並行する。
(四)米軍の作戦方法を研究し、電磁波兵器とマイクロウエーブ兵器などを含む非対称戦能力を高め「抗米奪台」の目標を達成する。
三、軍事予算
中国の軍事予算はこの十数年間、公表分だけでも二ケタ成長を続け、隠蔽された部分と非軍事部門の予算を含めれば、米国、ロシアに次ぐ世界第三番目で、アジアでは第一位の軍事予算大国となっている。
〔予算概況〕
中国の二〇〇四年度軍事予算は二千百億人民元(約二百五十三億九千五百万ドル)で、前年の千八百八十一億人民元より一一・六%増加した。対GDP比では一・六八%を占め、中央政府総予算の七・八五%を占めている。
〔隠蔽予算〕
中国の場合、公表された額は実際には軍事費の一部分に過ぎず、兵器開発に関する科学技術や核開発の部門は公表分の中には入っていない。教育費なども文教予算の方に組み込まれている。武器輸入代金は自国の武器輸出収益が引当てられ、これも公表軍事予算に入っていない。これらを合計すれば、実際の軍事費は公表分の三倍から五倍(五千億から六千三百億人民元、六百五十億から七百六十億ドル)となる。
四、現有兵力
中国は一九八五年に旧来の十一大軍区を七大軍区に再編して以来、総兵員数を一貫して二百五十万人以内としてきた。二〇〇三年には二十万人の削減を進めたが、これらはNATO軍の軍事改革を模倣したもので、部隊の小型化と合理化を進めるためである。
中国の軍隊は人民解放軍、人民武装警察、予備役部隊と民兵といった三部門で構成されている。
〔人民解放軍〕
総兵員数は二百二十三万人余で、その内第二砲兵隊(ミサイル部隊)が六%、地上部隊が六四%、海軍は一四%、空軍は一六%の構成となっている。
(一)二砲(ミサイル部隊)
①兵力配備‥総兵員数は十三万人余で、ミサイル発射部隊、技術装備部隊、工兵部隊、化学防衛部隊、訓練隊、後方支援部隊に分かれ、ミサイル基地は約百カ所に置かれている。衛星誘導の技術を取り入れ、精度は強化されている。特に精度が高められた東風十五型とその改良型は主として江西省に、東風十一型とその改良型は主として福建省に配備されている。それらのミサイルは、台湾の主要軍事基地を射程距離内に置いている。
②今後の発展方向‥東南沿海部での配備を年々強化しており、各種戦略、戦術ミサイルの小型化、機動化を進めている。
(二)地上部隊
①兵力配置‥総兵員数は百四十一万人余で二十個集団軍、約五十個師団に編成され、南京、広州、瀋陽、北京、蘭州、成都、済南の七大軍区に分けられている。このうち福建省には約六万人が配置され、南京軍区の指揮下にあって、台湾侵攻の際の主力部隊となる。なお福建省には短期間に済南軍区と広州軍区から応援部隊を投入することが可能であり、その場合の兵力は二十五万人になると見られる。
②今後の発展方向‥機械化師団の編成、トラックの第三代装甲輸送車への変換などによって緊急機動作戦能力を強化し、同時にIT戦能力の強化、現代化通信指揮系統の確立などによって総合作戦能力を高めようとしている。
(三)海 軍
①兵力配置‥総兵員数は三十二万九千人余で北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊、航空隊、陸戦隊二個旅団に分けられ、総艦艇数は千九百隻を越える。その内東海艦隊は潜水艦を含め七百三十隻余を保有し、台湾海峡での作戦を主とし、台湾封鎖、制海権奪取を任務としている。
②今後の発展方向‥指揮系統の簡素化、緊急対応と機動能力の強化によって制海権奪取の能力を備えようとしている。さらに南シナ海での覇権を確立し、台湾封鎖作戦能力を整え、制海権奪取と上陸作戦能力まで整えようとしている。
(四)空 軍
①兵力配置‥総兵員数三十七万人余で各種航空機三千四百機余を保有し、殲轟型爆撃機は七百三十機余りである。飛行場は軍民共用を含め百カ所近くを有し、一度に二個空挺団を運び、一~三日以内に約千機の戦闘機を配置につける能力を持つ。
②今後の発展方向‥機動力と中長距離攻撃および空挺団作戦能力を高めるとともに、三軍連合作戦の能力を強化しようとしている。
〔人民武装警察〕
員数は九十三万人余で、公安、消防を含めれば百五十万人を超す。管理と訓練は国務院公安部が担当し、実動指揮権は中央軍事委員会が持つ。政府機関、要員の防衛、社会治安の維持、突発的事件の処置、テロ対策を主要任務とする。
〔予備役および民兵〕
総兵力は六十万人余で、主として退役軍人によって編成され、後方支援を主要任務とする。
〔民兵〕
約一億人、総人口の一割がこれに属し、戦時動員を主とする。
【国防部 2004年12月14日】