台湾週報2142号(2004.5.6)
全WHO加盟国に理解を求める
台湾の加盟は世界防疫体制に不可欠
本年のWHO年次総会は5月17日よりジュネーブで開催される。これにさきだち、中国国営の「新華社」は、北京を訪問したWHO事務局長が台湾の加盟を否定したなどと誤った報道を世界に流した。世界普遍的な衛生人権よりも自己の政治的イデオロギーを優先させた中国の宣伝工作に対し、行政院衛生署は4月20日、中国の謬論に反駁するとともに、全WHO加盟国に台湾への理解を求める談話を発表した。
中国の衛生人権無視に反論
世界に人権への理解を要請
中国当局は四月十九日、台湾の二千三百万国民の衛生人権を無視する発言をした。行政院衛生署は同二十日、中国政府の謬論に対し、「台湾は全人類の健康のため貢献することを望む」と題する文書を発表した。以下はその全文である。
○ ○ ○
高強・中国衛生部次官は四月十九日、李鍾郁(イ・ジョンウク)世界保健機関(WHO)事務局長と北京で会談した際、「台湾がWHOに加盟するのは、政治的な口実を設けることになる」などと発言し、「台湾はWHOの情報を十分に得ている」と述べた。これらは事実無根の謬論であり、行政院衛生署(厚生労働省に相当)は、中国当局に厳重に抗議するとともに、国際社会に対し、台湾がWHO加盟を求めているのは決して政治的な訴えではなく、台湾の二千三百万人の衛生人権が他のWHO加盟国の国民と同じように顧みられるようになることを望んでいるものである点に理解を示すよう求める。
台湾は尊い人命の代価を払ってから、インターネットでWHOの情報を検索し、学者・専門家らと検討した上で、WHOがネット上に公開した情報を国民に提供していたのである。われわれは国際社会の一員であり、ウイルスが台湾に上陸しないという保障はどこにもない。台湾はこれからも、WHOに門戸を閉ざされているばかりに、ウイルスに猛威をふるわれ多大の損害を出したのち、みずから学んで防疫の方途を模索しなければならないのだろうか。
昨二〇〇三年三月、重症急性呼吸器症候群(SARS)のウイルスが台湾を襲った。わが国は三月十四日にWHOに対し、最初の症例を報告するとともに専門家の派遣を要請したが、WHOの反応は遅く、五月三日に至ってようやく二名の専門家派遣を決定した。このときすでに台湾においてSARS感染の疑い例は百件となり、八人が死亡し、事態はますます重大となり、国際社会との衛生協力を通じての支援が絶対に必要な状況となっていた。SARSはこのように、将来における新たな伝染病の蠢動を予測させるものとなったが、それでも台湾はWHOから門戸を閉ざされ、台湾は危険の充満する中に置かれ、顧みられないままとなるのであろうか。
わが国の学者・専門家は、WHOが主催するシンポジウムに参加し、各国の専門家と意見を交換して最新の情報にリアルタイムで接し、新たな防疫知識を吸収することができない状況に置かれている。たとえば昨年SARSが猛威を振るったおり、わが国はWHO加盟国専門家によるシンポジウムに参加することができず、三月中はわずかにWHOがインターネットで発表する防疫のガイドラインに頼り、各種の防疫対策を立てる状況であった。四月になってから和平病院で大規模な院内感染が発生し、防疫安全ネットに深刻な不備があると判明し、この時点に至ってからWHOはようやくわが国の要請に応じ、最新情報の提供要請に応じるとともに、五月初旬に台湾に指導要員を派遣してきたのである。この時わが国ははじめてインターネットで得る情報とリアルタイムによる最新情報の格差を知ったのである。わが国の学者・専門家もまた、五月中旬になってから、ようやくWHOが主催するSARS関連のシンポジウムに参加することができたのであった。また一方、わが国はWHOに最適の防疫体制を立てるため要員を派遣するよう求めているが、現在に至るまでまだ明確な回答を得ていない状態である。
今年は鳥インフルエンザが猛威を振るっているが、わが国は依然として関連の国際会議に参加できず、本年三月十六日から十八日に開催されたウイルス・シンポジウムに参加することもできなかった。このようにわが国は最新情報を取得する道を閉ざされ、防疫体制に疎漏を来たし、ウイルス防止の時間的問題にも影響が生じている。このため、世界の防疫効果にも影響を及ぼす恐れがあり、ここにもわが国が早急にWHOの各種会議と活動に参加し、国際医療の専門家らと直接意見を交換し、交流する機会を得なければならない理由があるのだ。
台湾がWHOに加盟するのは、台湾が国際防疫メカニズムに参加することなのである。もし台湾が直接WHOのリアルタイムの情報を得ることができず防疫ネットワークに参加することもできなかったならどうなるだろう。今日の国際往来の緊密な時代に、防疫体制にわずかの疎漏でもあれば、それが世界の危機を招くことにもなりかねないのだ。
台湾と中国の関係は、断じて中国が台湾の世話をしているといったようなものではない。今日の台湾の医療水準ならびに積み重ねた公衆衛生の経験は、逆に台湾が中国にそれらを提供し得るものとなっている。実際に台湾は、アフリカや中南米諸国に衛生面での支援をおこなっているのだ。国際社会の一員として、わが国はさらに充実した衛生環境を獲得し、支援を必要としている国々に、われわれの能力をもって協力したいと願っている。台湾がWHOに加盟することは、台湾がふたたびSARSに代表されるような伝染病の被害から免れるためだけでなく、全人類の健康のため世界と心を合わせて貢献することにもなるのである。それは断じて「政治的な口実を設ける」といったような狭隘な政治的意図によるものではないのである。
【行政院衛生署 4月20日】
●李鍾郁発言の報道は誤報
第五十七回WHO年次総会は五月十七日からジュネーブで開催されるが、台湾は総会にオブザーバーとして参加するため、八度目の準備をしている。ところが中国国営の「新華社」は、北京を訪問した李鍾郁・事務局長が「一つの中国」支持を表明し、「台湾のWHO加盟やオブザーバー参加はあり得ない」と発言したなどと報道し、台湾の加盟を妨害する態度を改めて鮮明にした。
これについて世界保健機関(WHO)は四月二十日、「台湾のWHO加盟問題は加盟国全体で決めるものであり、李鍾郁・事務局長が『台湾のWHO加盟やオブザーバー参加はあり得ない』と語ったとするマスコミ報道は、李鍾郁・事務局長の発言内容を誤って引用したものである」と発表した。
また、シンプソンWHOスポークスマンは台湾の記者の質問に対し、「WHOの一貫した立場は、台湾の加盟問題は加盟国全体で決めるというものであり、そこにいかなる変更もない」と証言した。
《台北『中国時報』4月22日》
●今年のWHO加盟前進か
台湾は五月十七日から開催されるWHO年次総会に八度目の参加申請を提出するが、陳唐山・外交部長は四月二十二日、「昨年はSARSの蔓延によって台湾が世界衛生メカニズムから孤立していることが明らかにされ、日米などの国々がわが国の参加を支持した。今年のWHO年次総会の状況は、去年よりもよくなっている」と明らかにした。
昨年まで台湾のWHO参加問題は開会当日の総務委員会で論議されただけで、総務委員会議長の「まだコンセンサスが得られていない」とする判断で総会議題に上程されることはなかった。今年は総務委員会を通過し、総会議題に上程される可能性がある。このとき台湾の友好国がふたたび台湾の加盟支持の弁論を行い、次いで加盟国全体による投票で決定されることになる。
これについて米国政府は四月二十一日、「もし投票になれば、米国は賛成票を投じる」と明言した。また下院も同日、台湾の加盟支持を四一〇対〇で可決した。
《台北『自由時報』4月23日》
週間ニュースフラッシュ
◆台湾で高性能LED開発に成功
中興大学の洪瑞華・武東星両教授夫妻がさきごろ、行政院国家科学委員会の協力のもと、従来より三倍以上の発光度を持つ高性能LED(発光ダイオード)の開発に成功した。独自の設計設備により世界に先駆けて低価格化を実現し、すでに日本、韓国、中国などに技術移転をおこなっている。
《台北『自由時報』4月16日》
◆外交部がイラクへの渡航自粛勧告
イラクで外国人が人質となる事件が多発しているなか、外交部はさきごろ、イラクへの渡航を最厳重レベルの危険地域に指定し、国民に当分の間同国への渡航を自粛するよう勧告した。
《台北『青年日報』4月16日》
◆陳唐山・外交部長が日本の人質解放に喜びの意表明
さきごろ外交部長に就任した陳唐山氏は四月十五日、イラクで拘束された日本人三人が無事解放されたことについて、「非常に喜ばしいことだ」と祝福し、テロの暴力行為には断固反対することを強調した。
《台北『中央社』4月16日》
◆経済界四団体が東京共同事務所を設立
中華経済研究院、工業技術研究院、資訊(情報)工業策進会、台湾区電電公会は四月十七日、台湾経済の振興と相互交流促進のため、東京共同事務所(住所:郵便番号108-0073 東京都港区三田1-2-18 TDDビル3階、℡03-5419-3836)を設立した。
(本誌編集部 4月18日)
◆「日本林氏宗親総会」が二十周年
同じ一族の祖先を敬う「林氏宗親総会」の日本支部「日本林氏宗親総会」の創立二十周年記念祝賀会が四月十八日、東京都内で開催され、台湾、日本、カナダ、フィリピンなど世界各国から林姓の代表約五百人が集い、世界の恒久平和を祈願した。来賓には羅福全・台北駐日経済文化代表処代表をはじめ、日本の各華僑団体会長および国会議員、林嘉政・世界林氏宗親総会理事長らが出席した。
《台北『中央社』4月18日》
◆二〇〇四年の経済成長率は五・一%見込み
世界銀行はこのほど「世界開発金融報告」を発表し、日米、中国の経済需要により、二〇〇四年における東南アジアの経済成長率は前年比六・三%と過去四年以来最高となる見込みと予測した。台湾の経済成長率については半年前に予測した四・一%を五・一%に上方修正した。
《台北『経済日報』4月21日》
◆三月の失業率が四・四五%に
最近の世界経済の好調に伴い、台湾経済も回復基調を見せており、行政院主計処では四月二十二日、台湾における三月の失業率が前月比〇・一六ポイント改善して四・四五%となり、二〇〇一年五月以来、約三年ぶりに低水準となったことを発表した。
【行政院主計処 4月22日】
◆票再集計は五月二十日以前に完了目指す
陳水扁・呂秀蓮正副総統の当選無効訴訟について、台湾高等裁判所はこのほど、連戦・宋楚瑜および陳・呂両陣営の弁護団と票の再集計について協議の結果、「遅くとも五月十日までに票の全面的再集計実施を決議し、その後十日以内に集計を完了する」と表明し、五月二十日の総統就任式以前に本件を解決に導く方針を明らかにした。
《台北『中国時報』4月22日》
陳総統が語る「一つの中国」の陥穽
幻想より生じた北京の観念は帝国主義と同様
陳水扁総統は四月二十日、総統府において米ハーバード大学のロス・テリル教授と会見した。テリル教授は中国研究の専門書『一つの中華帝国の夢』と題する一書を上梓しており、陳総統はこの書籍の内容を中心にテリル教授と意見を交換した。その主な内容は以下の通りである。
総統‥私の遠い先祖は、あるテレビ局が調べたところによれば、福建省詔安県太平鎮白葉村ということで、機会があれば一度行ってみたいと思っている。だがそれは、自分が台湾という社会を構成する一員であるとのアイデンティティーになんら影響を及ぼすものではない。私は台湾人であることに誇りを持っている。これは紛れもない真実だ。
教授:私の本にも記したが、台湾二千三百万国民が自分を台湾人と認識するか、それとも中国人と認識するかといった意識調査の結果を見れば、その比率が大きく変化している。
総統‥実際において、台湾におけるアイデンティティーの問題は、この四年間で大きく変化した。自分を台湾人と見なす意識はすでに五〇%を越えている。教授の書かれていることは事実だ。
そのための重要なカギとなるのは、教授も指摘されている通り、何をもって「一つの中国」と言うか、中国の政権をなぜ「帝国」と表現するか、帝国と現代の民主国家との違いは何かという点だ。帝国の誕生は武力を基礎としており、現代国家はそこに住んでいる人々の同意を基礎としている。現在の北京政権は中国の歴史的伝統である専制政権の焼き直しである。中国史に登場する王朝はいずれも消滅しており、北京政権も伝統的な専制帝国として、必ず消滅する日を迎えるだろう。
教授も指摘されている通り、いわゆる「一つの中国」とは、北京政権が専制帝国の政治的神話より作り出したものであり、「中国」という概念も清朝末期に生まれたものであり、五千年の伝統を持つといったようなものではない。「中国」の概念とは、政治的なものである。
教授:私が「中華人民共和国」をなぜ「帝国」と見なすかについては、三つの理由がある。その一は、現在の中華人民共和国の西半分は、歴史を見ても明らかなように、漢人が統治していたのではなく、モンゴル、チベット、トルコ民族が統治していたという点だ。二は、中華人民共和国は今日の世界において唯一、実際の領土以外の土地の主権まで主張しているという点だ。それは海洋にとどまらず、陸上にも及び、西シベリアまでその範囲に入っている。その三は、中華人民共和国の制度は下から上へではなく、上から下へというものであるという点だ。上層部の者は権力は無論すべての中心であり、下が守らなければならない指令を出し、イデオロギーを出しており、北京の指導幹部はまるで人民の親といった性格を持っている。
いわゆる「一つの中国」の概念は国際関係には適用できないものであり、一種の国内統治の方便である。中国は黄河流域で発展しはじめてから、この国家統治の概念を利用し、あとになってから漢人以外にもそれを拡張し、中央の専制権力を固めてきた。ここにおいて、北京の言ういわゆる「自治」には特に注意が必要となる。理由は、チベット、ウイグル、さらに香港などの自治の現況を見れば明らかであり、そこから最後の結果が予測できよう。
総統‥いわゆる「一つの中国」の神話を、中国は台湾にも押し付けようとしている。一九九七年に香港が中国に回帰した結果、現在では「一つの中国」のみが残り、「二制度」は消えてしまった。中国は「一つの中国」を台湾人に押し付け、台湾人がそれを受け入れる範囲内において、対話も交渉も可能だなどと言っているが、それは台湾をかれらの陥穽に陥れようとするものでしかない。民進党は一九九九年に台湾の前途に関する決議をしたが、それは「一つの中国」の妄想を唾棄しなければならず、「一つの中国」の妄想が、台湾海峡の現状を打開できない主因になっているとするものである。
教授は著書の中で外モンゴルの問題にまで言及しておられるが、中国は外モンゴルを含めるほど大きいのだろうか。ここに興味深い問題がある。中国のような覇権主義国家でもモンゴル共和国の存在を承認している。一言で中華思想といっても、中国が認識するところと、台湾のかつての政府が抱いていた妄想とは異なっているのだ。それだから、李登輝総統が登場してからは、台湾政府とモンゴル共和国との関係には大きな変化が生じた。言い換えれば、かつての中華民国の領土とはまったく妄想によるものであり、その妄想における「中国」の中に蒙古人民共和国があり、中華人民共和国が存在し、さらに海峡の彼方に中華民国が存立しているというものであった。中国においても、毛沢東時代には中央アジアのタジキスタンやカザフスタンも中国の一部分だなどと主張していた。いずれもまったく事実に反する主張ではあるが、そこから、かれらは一つの民族だから一つの国でなければならないというようなことも、一つの国だから一つの民族で構成されなければならないというようなことも主張していたのではないという点が理解できよう。
教授は著書の中で、「一つの中国」に見る政治的神話には多くの虚飾があり、歴史的なものがあり、それが政治的なものになる場合もあると記されている。現在、台湾とモンゴル共和国は、同じ「一つの中国」の中にいるのではなく、まったく別の国となり、台北とウランバートルにそれぞれ代表処を開設している。私が台北市長に在任中、台北市はモンゴル共和国の首都ウランバートル市と姉妹都市の提携を結んだ。こうした現実路線ではなく、幻想より出た政治的神話は、現代の目から見ればきわめて興味深いものがある。
台湾と中国の最大の相違点は、台湾は民主制度で下から上への行政であり、中国は専制制度で上から下への構造であるという点だ。台湾国民は直接選挙によって国家の指導者を選出している。次には、われわれは新憲法を制定したいと願っている。私は、憲法の原文が最終的に国民全体の同意を得られるよう希望している。中国はこれまで少なくとも四回も憲法を作り変えてきたにもかかわらず、台湾が国民の公民投票を通じて憲法を制定しようとすると、穿ったレッテルを貼り、「台独へのタイムスケジュール」だなどと非難している。中国の主張はまったく非理性的かつ無責任であり、われわれはこのような中国の反対によって、民主主義の深化を止めることはできない。憲法制定は現代民主国家における権利であり、国家の基本法となる憲法は、当然民主的な手続きと国民の同意を必要とする。そうしてこそ、憲法はその正当性と合法性が得られるのである。
教授‥今回の総統選挙で、陳総統への支持率は、前回の三九%から五〇%以上へと増加したが、このことによって、中国がすでに台湾の選挙に干渉する能力を失ったと言うことができるだろうか。
総統‥今回の選挙結果は、台湾の与党がすでに台湾の主流的価値観および歴史の正確な道を立脚点にしていることを示すものとなった。わずか四年間のあいだに、票では百五十万票も増加し、得票率でも三九%から五〇%以上に伸びるというのは、きわめて珍しいことだ。もし台湾主体意識の台頭がなかったなら、一人の力や一党の力ではとうてい達成不可能なことだ。台湾を愛するから台湾を護る。台湾を護るためには民主主義を堅持し、現在の繁栄を維持しなければならない。この観念が台湾国民のなかに浸透し、それが今回の最も大きな勝因となった。
教授‥台湾内部において、「政治上の一つの中国」と「経済上の一つの中国」の概念をどう区別しているか。
総統‥専制政治の中国に対し、民主主義の深化が最も強力な防御力となる。現在、台湾内部における最大の危機は、国家のアイデンティティーの問題だ。台湾の国家としてのアイデンティティーには、さらに進んでコンセンサスを求める必要がある。なぜなら「一つの中国」の妄想や神話の下に、中国を祖国と誤認している人が台湾社会にもまだかなりいるからだ。かれらは中華人民共和国に脅威も感じず、敵対意識も持っていない。祖先がそこから来たというのは過去のことであり、それは忘れないが、根本は、それと国家のアイデンティティーを混同してはならないということだ。
【総統府 4月20日】
エスニシティー問題の解決に向けて
立法委員が四項目の認識を提案、民進党が新文化論を作成
さきの総統選挙では、与野党の一騎打ちにより族群(省籍や先住民の区分、いわゆるエスニシティー)問題がふたたびクローズアップされ、国民の間で社会的対立を生む要因ともなった。こうしたなか、民進党の沈富雄・立法委員は四月十六日、「台湾を愛する四項目の認識」を提案し、エスニシティー問題の解決を呼びかけた。
沈立法委員は「台湾人の大多数が台湾を愛している。年末の立法委員選挙でふたたび国民の台湾への愛を問う議題が持ち出されないことを望む」と述べた。四項目の認識は以下の通りである。
①台湾の大多数(おそらく九割以上)が台湾を愛し、愛していない者はほんの少数にすぎない。少数者を気にする余り、大多数の声を尊重することを忘れてはいないか。
②対中国政策の主張の違いや中国に対する感情の深さ、あるいは台 湾に移住してきた時期の違いによって、台湾を愛しているか否かは区別できない。
③台湾を愛する気持ちは客観的、科学的にその質や量を測ることはできない。
④上述の三項目の認識が正しければ、今後国民の台湾への愛を問う議題は、いかなる選挙の主軸にも、また票獲得の手段にもならないはずである。なぜなら、台湾を愛する気持ちは母親を愛する気持ちと同じであり、常に口に出して言う必要はないからだ。
沈立法委員はさらに「与野党ともこの問題については相手を非難ばかりしているが、客観的に見ればそらぞらしい限りだ。双方ともまずは自らを反省すべき」と強調した。
●与野党の反応
沈立法委員の提案について、与野党内では党の区別を問わず、評価する声と疑問の声の二つに分かれた。
蔡煌瑯・立法院民進党団幹事長は「沈委員の見解に全面的に賛成だ。台湾を愛することは天から授かった務めであり、この点を国民は誤解しないでほしい。ただ台湾を愛するなら、言うよりもすべきことの方が多いはずだ。あえて台湾への愛を強調すれば、かえってそらぞらしくなってしまう」とその危険性を示唆した。郭正亮・民進党立法委員は「いま討論されなければならないのは、台湾を愛しているかいないかではなく、愛する方法が正しいかどうかだ」と問題意識を指摘した。廖風徳・立法院国民党団書記長は「国民党は沈委員の見解に全面的に賛成する」と評価したうえで、「なぜ総統選挙の最中に表明しなかったのか、遅きに失した感は否めない」と語った。
《台北『自由時報』4月17日》
●総統就任演説で新文化論を表明
エスニシティーの問題解決に向けて、現在民進党は本土化の中身について新たな解釈を行うとともに、外省人のアイデンティティーとその文化を肯定する「新文化論」を作成中だ。これは五月二十日の陳総統の就任演説の際に表明されると見られている。「新文化論」の具体的な運用については「民進党は重要な場合には国語を多用する」ことなどが検討されている。
民進党が以前野党の立場で本土化を強調したのは、権威主義と中国化に対抗するためで、当時の本土化論にはある種の排他性が伴った。しかし時代と環境が変化し、民進党はすでに与党となり台湾の主体意識も確立された現在、本土化という場合の範囲は、狭く限定されたものであってはならない。
民進党筋によると、「新文化論」は本土化について「すべてを受け入れる新しい台湾文化であり、中国化を排除することと同じではない。本土化は他を吸収できる性質を持ち、かつグローバル化とも矛盾しない。台湾文化はこの百年来、外来文化と不断に融合しながら形成されてきた。外省人の文化とその価値観も台湾文化の重要な一部である」と説明している。
《台北『中国時報』4月18日》
ニュース
内部の対立は台湾の危機
蔡英文・陸委会主委が指摘
蔡英文・行政院大陸委員会主任委員は四月十七日、中山大学で「両岸経済政策」と題した講演を行い「台湾を含めた世界中が中国の経済攻勢の圧力に直面している。台湾は内部的にも外部的にも力を強化しなければならない。ところが残念ながら、台湾は民主化後、集団的な対立と紛争を惹起し、問題の多くは一致団結以外に解決の道はなく、このままでは国家は危機的状況に立ち入る」と警鐘を鳴らした。
さらに蔡主委は「台湾は中国の経済的脅威に対抗しなければならず、そのため台湾の主体的な経済力を強化する必要がある。つまりエスニック、各種集団の対立や挑発を収め、ルールを確立し、生命共同体の意識を強化し、危機に対する団結へのコンセンサスを生み出さなければならない。民主化によって内部の紛争を生み、団結を失ってしまったのでは、台湾はますます危機に向かって進むことになろう」と指摘した。
《台北『自由時報』4月18日》
徐々に進む日本との軍事交流
日本の退役将官が演習視察
台湾海軍が毎年実施している魚雷演習は、今年は三月三十一日から四月十四日まで実施された。国防部筋によると、今年の演習には日本国海上自衛隊の元掃雷艦隊隊長の退役将官が直接随艦視察した。今年の演習方式は日本国海上自衛隊に近い方式がとられ、演習日程も海自に倣って二週間となった。これまでの台湾海軍の魚雷演習は三日から五日間であった。これについて廖宏祥・元三軍大学客員教授は「台湾と日本は戦略上において一致した部分がかなりある。数年前から台湾の現役将官が日本の退役将官と戦略対話を進めているが、今回は両国軍事交流の大きな一歩である」と表明した。
《台北『自由時報』4月20日》
日本で陳総統再選祝賀会
アジア安保フォーラム主催
日本のシンクタンクである「アジア安保フォーラム」(宗像隆幸・幹事)主催による「台湾総統選挙祝勝会」が四月二十一日、東京千代田区の私学会館で挙行され、二百人を超す日台両国の有志が陳水扁総統の再選を祝った。特にこの祝賀会には「二・二八 人間の鎖」運動を実質的に指揮した黄昭堂・台湾独立建国連盟主席が台湾から駆けつけ参加した。
主催者の宗像幹事は挨拶の中で「今回の選挙は台湾が国際社会の中で主権独立国となるか、中国の一部となるかの戦いであった」と陳総統再選の意義を強調し、「『二・二八 人間の鎖』運動が勝利につながった」と分析した。
黄主席は「陳総統の勝利は台湾人意識の勝利であり、天が台湾を助けた」と語り、選挙後の紛争については「李登輝前総統によって世界に認知された台湾民主主義の危機」と位置づけ「年末の立法委員選挙で台湾の民主化は決定する」と強調した。
(本誌編集部 4月21日)
台米の「現状」定義に相違点
陳唐山・新外交部長が指摘
ケリー米国務次官補が四月二十一日、米下院外交委員会で「米国は台湾独立あるいはいずれによる一方的な現状変更も支持しない」と表明した。これについて陳唐山・新外交部長は二十二日、「台米間に『現状』についての定義に相違点がある。米国は世界およびアジア地域の安全に対する配慮が基礎となっているが、台湾は国家利益が出発点になっており、完全な主権を持った国家の実現を願っている。双方はそうした『現状』認識について意思の疎通を図ることが必要だ」と表明した。
さらに陳部長は「『現状』の定義は時間とともに変化するが、なんぴとといえど民意の流れに背くことはできない。台湾海峡の『現状』は一九七九年の台米断交時とは異なっている。しかし依然として台湾の国家利益は米国の世界戦略の一環の中にあり、台湾の国家利益と米国の国家利益を結合させることを考えなければならない」と語った。
《台北『中国時報』4月23日》
チェイニー訪中は両岸関係への啓示
『青年日報』(4月17日)
チェイニー米副大統領は四月十五日、東南アジア訪問の二番目の訪問国である中国への公式訪問を終えた。期間中、同副大統領は北京で胡錦涛、江沢民、温家宝、曾慶紅ら中国共産党の要人と会見し、上海復丹大学で講演の際には、台湾問題は米中間の対話の焦点だとコメントした。
チェイニー副大統領はこれらの会談のなかで、「米国が『台湾関係法と三つの共同コミュニケ』に基づいた両岸政策を維持することは今後も変わりなく、台湾への武器売却と両岸の対話再開による争議解決を支持する立場を引き続き堅持する」と表明したが、これは台湾への支持と台湾海峡の安全保障を重視する米国の姿勢を明確に示しており、アジア太平洋地域の安全保障確保に大きな意義を持つものと言えよう。
今回、米中間では反テロ、経済貿易、軍事問題などについて意見交換がおこなわれたが、経済問題での貿易バランスや人民元引き上げなど、米中関係の摩擦となりうる問題も露呈した。とりわけ両岸問題に関しては、双方の主張は終始噛み合わなかったようだ。
中国側は連日にわたる会談のなかで、米国は公約を守り、台湾のトップが台湾の現状を変えようとするいかなる言動にも反対し、台湾への武器売却を停止するよう公然と要求したが、チェイニー副大統領は「台湾への武器売却は、中国が台湾に対しミサイルを配備しているためであり、米国は台湾関係法に基づき、自衛的武器提供の義務がある」と明言した。昨今、中東や北朝鮮の核問題など、一連の反国際テロの立場が米中間の距離を縮めたかに思われたが、こと両岸問題に関しては、双方には依然基本的な違いがある。
むろん、中国はあらゆる外交手段と国際活動の場を利用して、米中間の「三つのコミュニケ」の適用範囲を過大解釈し、台湾への武器売却を阻止しようとしているため、われわれは防衛の手を緩めてはならない。とくに中国がこの数年、大幅な軍拡をおこない台湾に向けたミサイルを増強していながら、米国に武器売却停止を迫っていることは、台湾海峡の安全保障とアジア太平洋地域の安定に深刻な脅威となっており、われわれは今後地域の安全と共通利益のため、米国とさらに緊密な戦略的パートナーシップを結ぶ必要がある。
一方、台米間で法的効力を持つ「台湾関係法」に加えて、当時レーガン大統領が八・一七コミュニケに対して打ち出した台湾に関する「六つの保証」にも、台湾への防衛的な武器の売却には中国の承諾を必要としないことが明記されている。さらに、チェイニー副大統領は今回、米国の両岸政策は「一つの中国政策、両岸の対話、平和的解決」という「三大支柱」を基礎とすることを再度強調したが、注目すべきは中国が対話再開の条件としている「一つの中国」の原則について、米国は「中国に誠意があるなら、前提条件など必要ないはずだ」とこれまで何度も表明していることだ。
したがって、われわれは米国が台湾海峡の安全保障を重視していることを確信しており、米中間の交流はアジア太平洋地域の平和と安定に寄与すべきだと考える。台米中三方はともに未来に向けて発展すべきであり、われわれは中国が両岸の現状に実務的に対応し、台湾の主流の民意を尊重し、対話を早急に再開させ、ともに両岸人民の福祉を模索していくことを願うものである。
団結し台湾国民の共同利益を護れ
『自由時報』(4月19日)
台湾で広く信仰される大甲媽祖の、年に一度のご神体巡行がさきごろ盛大に始まった。陳水扁総統は媽祖廟の鎮瀾宮に参拝し、「媽祖は台湾の二千三百万国民の守護神であり、その『台湾守護』と『慈悲と知恵』の精神を見習うべきだ」と語り、「台湾に来た時期がいつであろうと、皆この地を愛し、団結すべきである」と国民に強く呼びかけた。また、今後は「台湾の団結」、「両岸の安定」、「社会の安定」、「経済の繁栄」を四大施政目標とすると表明した。
陳総統の四つの提案のうち、最も重要なのは「台湾の団結」であろう。二千三百万人が団結し力を合わせてこそ、両岸および社会の安定と経済的繁栄が得られるのであり、もし個人の利益を求めて国家の分裂を招くならば、台湾内部の矛盾は拡大し、経済は衰退し、中国に台湾攻撃の機会を与えることにもなりかねないからだ。陳総統の「台湾の団結」という提案が具体化され、与野党および国民同胞の団結を促すことこそ、多くの人が願うところのものである。
台湾は移民国家であり、現在この地に生活する人々は、一九四九年以前とそれ以後に移ってきた人とに大きく分かれる。しかし自由の地を求めて来た目的は同じであり、また移民国家にとって「包容」と「団結」の精神が非常に重要であることは言うまでもない。「包容」とはそれぞれの背景が異なっても、互いに状況を理解し合おうとすることであり、「団結」はまさに外部の敵から共同の利益を守ることである。
「台湾の団結」という提案は、台湾のこれまでの政情の変化を反映している。大陸反攻の神話が存在し、外来政権が台湾を支配していた時代には、こうした主張など考えられなかったが、その後台湾は歴史的な民主改革の実現を経て、権威主義時代は終結し、ついに国民全体が団結しようとする時に至ったのである。しかし残念なのは、こうしたなかで、一部の政治家は異なった背景を持つ各エスニックの隔たりを利用し、選挙の票集めの道具として来たことだ。
こうした人々はこの数年、選挙のたびに、台湾にいつ移民して来たかで国民を二つに分断し、双方の隔たりをイデオロギーに結び付け、互いの対立を煽って来た。こうした矛盾を増殖させる行為は、台湾の国家アイデンティティーに反するものであり、国民に台湾内部に敵がいるかのように錯覚させ、解決すべき真の問題は両岸関係にあることを忘れさせてしまう。
今回の総統選挙では、エスニック問題にふたたび焦点が当てられたが、今われわれが真になすべきことは、過去の経緯や背景を追求することではなく、台湾を今後どう発展させ、前進させていくかであるはずだ。一致団結して台湾を守ることこそ急務であり、政治家は自らエスニック間の確執を捨て去り、建設的競争をすべきである。
三月二十日の正副総統選挙終了後、政界では社会の分裂を招く事態が続いており、陳総統の提案はまさにタイムリーだったと言えよう。この一カ月、台湾社会は混乱し、経済には不安定要素が満ち、台湾海峡情勢にも影を落としている。こうした事態は国民の期待と相反しており、台湾の民主化の未熟さを国際社会から指摘されるという状況を招いた。
ただ喜ばしいのは、今回の選挙を通して台湾の有権者がますます成熟し、政治家の行動を冷静かつ明確に観察していることが判ったことだ。国民が台湾のアイデンティティーを持ち、台湾を護ろうという堅い意志を持ちつつある今、政治家は地に足をつけてこの地のアイデンティティーを認識し、台湾を外部から護るために団結することの重要性を理解しなければ、主流の民意によって淘汰されていくことは間違いないだろう。
エスニシティーの融合に必要なこと
相互尊重、公民意識の確立、民主の深化が不可欠
さきの総統選挙でふたたびクローズアップされ国民の対立を生んだエスニシティー(族群)問題。政治家はなぜ選挙のたびにこれを持ち出すのか。国民はいつになったらこの問題から解放されるのか。問題の現状認識とエスニシティー問題の課題について『民生報』はこのほど有識者、宗教家、文化人に意見を聞いた。以下はその抜粋である。
愛国心を疑ってはならない
李家同・曁南国際大学教授
台湾にそもそもエスニシティー問題は存在しない。だが、選挙のたびに各エスニシティーが分裂するという問題がある。今回の総統選挙で最も深刻なのは、票の再集計でも総統、副総統の銃撃事件でもなく、各エスニシティーの分裂である。
どの国も政治問題で国民が分裂することはないのに、なぜ台湾は選挙のたびに傷を負うのだろうか。それは、互いに政治理念や主張が異なっても相手の愛国心を疑わないからである。民主国家において、国民の愛国心は問題にならない。だが、台湾ではしばしば「台湾を愛する、愛さない」といった言葉を耳にする。問題のすべてはここから来ている。
人びとは選挙が終わるたびに和解を叫ぶが、それではすでに遅いのだ。れわれが政治理念の違いで分裂しないための方法はただ一つ、互いを尊重することしかない。ここで言う尊重とは、相手の国家に対する忠誠心や愛国心を疑わないこと、つまり「台湾人かそうでないか」「台湾を愛しているかいないか」を疑わないことである。
公民意識を高めるべき
陳其南・行政院政務委員
台湾にはエスニシティー問題は存在しない。今回の総統選挙で引き起こされた与野党の対立は、各エスニシティーの文化や言葉の違いとはまったく関係なく、イデオロギーや国家アイデンティティーに関わるものだ。つまり、政治認識の問題にほかならない。
選挙期間中、与党が国家アイデンティティーを取り出し、台湾か中国かの選択を迫ったのは選挙戦略であって、故意にエスニシティー間の感情を刺激し、対立を招こうとしたのではない。ただ両岸が敵対状態にあるという事実がゆえに、国家アイデンティティーとエスニシティーが混同され、問題になっただけのことである。
国家は公民意識を主体に発展すべきであり、エスニシティーを主体としてはならない。このため、台湾はコミュニティーの運営に積極的に取り組み、公民意識を高め、異なるコミュニティーやエスニシティーの主体性を尊重することを学ばなければならない。それによってはじめて、エスニシティーの対立は解決できるのだ。
嫌いな人のために祈りなさい
周聯華(牧師)
われわれは自分の最も嫌いな人を見かけたら、車に轢かれて死んでしまえばいいと思うだろう。だが、クリスチャンで神にそう祈る人はいない。祈るのは、すべて耳に心地よいことばかり。つまり、いいことを何度も祈り、口にしていれば、いつか自分の心の中もよい方向に変化すると考えるからである。
聖書は「祈りがすべてを変える」と教える。祈りを通して最も変わるのは自分自身である。
中国人にはもともとエスニシティーの対立という観念はなく、選挙も例外ではなかった。考えてもらいたい。いまや夫婦が外省人と本省人のペアという家庭はすでに多く、そのすべてが円満であるとは言わないが、婚姻に不満を抱いているのは少数にすぎない。われわれは職場では互いに協力し、励ましあう仲間であり、そこにエスニシティーの区別は問題にならない。
今回の選挙でこれほどエスニシティーの対立が激化したのは、政治家が票獲得の手段としたためだ。私が最も残念に思うのは、もともと仲のよかった夫婦が、政治家の策略で不和をおこしてしまうことである。
政治理念の違いは、民主の深化で緩和できる
瞿海源・中央研究院研究員
エスニシティー問題は「分裂」というほど深刻な状態にはなっていない。台湾には確かにエスニシティー問題は存在するが、それほど深刻ではない。普段の場で各エスニシティーが融合する際に比較的問題となるのは、政治権力だけである。
中央研究院社会学研究所が長期にわたり行ってきた台湾社会の変遷に関する調査結果から、エスニシティーによって政党への認識に大きな違いのあることがわかった。この十年間で、閩南人の国民党支持率は大幅減少から徐々に増加傾向を示し、客家人の国民党、民進党支持率はますます近づいている。一方、外省人の民進党支持率は小幅ながら上昇している。つまりこれらは、各エスニシティーの政党に対する支持率の違いが徐々に改善されてきていることを示している。
このことから、台湾の社会にはエスニシティー問題が存在し、エスニシティーにより政治理念に違いがあっても、「分裂」という事態にはないと言える。
この政治理念の違いについて、私は新疆ウイグル族出身の弧影疆氏が総統選挙前に発表した「外省人の真情告白」の主張に賛同する。氏は「台湾のエスニシティーの政治色が強すぎることが、外省人の民進党離れ、もしくは敵視を招いている」と指摘している。
これには民進党にも責任がある。戒厳令前後、民進党の活動は権威体制への抵抗であって外省人を排斥するものではないと明言しなかった点だ。また言語の問題については過剰反応を示し、底辺の外省人に対し温かい言葉をかけることが少なかった。
外省人は本土化政権によってエスニシティーとしての危機を煽られ、その結果、統一・独立問題に過度な情緒的反応を示し、国民党と心情を結ぶことが習慣となり、長期にわたって民進党を敵視してきたのである。与野党がもしエスニシティーの対立を解決したいと望むなら、ともにそれらの態度を反省し、民進党は外省人の心のしこりを許し、外省人は敵視を改めなければならない。
各エスニシティーの政治理念の違いは長い間蓄積されたものであり、短期間の呼びかけによってなくすことは無理である。ただ、民主の深化によってのみエスニシティー間の政治的立場と政党に対する認識を徐々に緩和できるのだ。
時間が事態を緩和する
朱銘(芸術家)
台湾にはもともとエスニシティー問題は存在せず、政治家がこれを煽っているにすぎない。外省人と本省人の婚姻はもはや普遍的となっており、両者はいやでも融合しないわけにはいかない状況にある。昔の台独派の年配者は蒋介石に対する恨みがあっても、二代、三代と時代が移り変わるにつれて、エスニシティー間の恨みは現在ないに等しい。普段私たちは互いのエスニシティーを気にしてはいない。ただ選挙のときに政治家とマスコミが煽っているにすぎない。人びとの反応を見ると、一時期話題になったニュースも、長く続けば人々は飽きる。時間が物事を緩和させ、人びとに平常心を蘇らせる。自分のすべきことをきちんとやることが最も重要だ。
互いを尊重すること
高金素梅・原住民立法委員
私はエスニシティーの融合よりも、互いを尊重することを訴えたい。先住民はこの地の最初の住民であり、長い間、オランダ人、漢民族、満州族、日本人の統治に、ひたすら誠実に対応し、争いを避ける態度をとってきた。こうした外来文化を尊重し、相手に胸襟を開く態度こそ、現在の台湾の社会に最も欠けている点である。
エスニシティーの融合は文化の消滅を意味する。もし各エスニシティーを融合させるとしたら、主体となるのは誰だろう。政府は閩南文化を提唱しているが、その中に客家や先住民、外省人の文化は含まれず、それらは消滅の運命をたどるだろう。
政治家の一挙手一投足を見極め、かれらに踊らされないことが社会の分裂を招かない方法だ。さらに、政府が誠実さと謙虚さをもって社会の多元的文化を受け入れてこそ、国家はより調和のとれたものとなる。
《台北『民生報』4月19日》
台湾観光年
緑島の温泉がリニューアル
昨年十一月から施設の補修工事が行われていた緑島の朝日温泉がリニューアルされ、大勢の観光客で賑わっている。この四月十三日からは温泉シーズンが開幕した。
朝日温泉は世界でも珍しい海底に湧く温泉として知られている。海岸を望む絶好のロケーションにある湯船は潮の干満によって温度が変化し、終日開放されているため、温泉につかりながら夜は満天の星を仰ぎ、朝は水平線上に日の出を迎え、野趣あふれる自然の醍醐味を体験できる。
リニューアルによってこれまで三つしかなかった湯船は、それぞれスタイルの異なる五つのSPA温泉とプールに生まれ変わった。経営を引き継いだ台東・知本温泉の六つの業者は、今後朝日温泉を国内だけでなく外国人観光客にも積極的にPRする考えだ。とくに朝日の素晴らしさをセールスポイントに、夕日とコーヒーをテーマにした懇丁・関山蓮荘の観光と合わせて宣伝していく。
《台北『民生報』4月12日》
「基隆国際美食フェスティバル」盛況のうちに幕
さまざまな屋台料理で知られる基隆で開催された「二〇〇四基隆国際美食フェスティバル」には国内外から大勢の観光客が訪れ、四月十七日、盛況のうちに幕を閉じた。
基隆市はこれまで毎年この時期にグルメフェスティバルを開催しているが、今年は政府の「台湾観光年」に合わせ、市内のさまざまな観光業者とタイアップし、例年にない大規模なものとなった。会場の東岸埠頭と和平広場にはおよそ五十の屋台が並び、海のおばちゃん特製の「体にいい水餃子」、海苔アイスクリーム、先住民のバーベキュー料理のほか、基隆で有名な老舗菓子店の芋や黒砂糖を使ったスイーツに大勢の観光客が舌鼓を打った。
フェスティバルそのものは終了したものの、今回初めて発行された基隆市内の主なレストランや食堂での飲食、ホテルの宿泊クーポン券がついた「美食観光護照(パスポート)」は、有効期限が年末までとなっており、台湾北部のコンビニと中華美食交流協会などで一冊九十九元(約三百五十円)で販売されている。
基隆市ではこのほか、グルメと史跡めぐりを合わせた各種日帰り観光を千元(約三千五百円)以下で打ち出している。
《台北『民生報』4月18日》
花蓮六十石山にケーブルカーを建設
交通部は四月七日、花東縦谷の六十石山にケーブルカーを建設する計画について、その詳細を明らかにした。
六十石山は「金針花(ユリ科のハマカンゾウ)山」の異名を持ち、夏になると、あたり一面黄色いジュータンと化す。ここに十三億元(約四十五億円)をかけて全長四・八㎞のケーブルカーを建設する。片道二十五分、料金は七百元(約二千四百円)で、毎年二十万人の観光客を見込んでいる。
玉長公路の開通などで六十石山を含む羅山遊憩区は最近観光客が増えている。一帯は地質や地形の関係で道路を建設できないため、ケーブルカーが浮上した。五月から投資業者の募集を開始し、建設はBOT方式で行う。
《台北『民生報』4月8日》
文化ニュース
東京国際ブックフェアに台湾からも出展
毎年恒例の「東京国際ブックフェア」が四月二十二日~同二十五日、東京ビッグサイトで開催され、台湾の出版社も出展した。
今年十一回目を迎えた同フェアは、世界二十五カ国から約六百社が出展し、過去最大規模となった。
台湾からは、陳恩泉・中華民国図書出版事業協会秘書長を団長に二十六人の出版関係者が来日し、フェアに参加した。初日、羅福全・駐日代表も会場に姿を見せ、台湾の関係者を激励するとともに「日本は世界最大の書籍市場と言える。台湾の国民も、もっと本に親しみ、自らを広げてほしい」と述べた。また陳秘書長は「政府は文化事業を重視するようになっている。予算を組んで日本統治時代に残された史料を系統的に整理すれば、台湾は世界の出版業界でより強固な足場を確保できるだろう」と語った。
《東京『中央社』4月22日》
林名誉天元が二千局を達成
対局数、勝利数とも第一位
日本棋士界で活躍する台湾の林海峰名誉天元が、このほど三月二十四日に沖縄で開催された「第三回囲碁アジアカップ」で、一九五五年のプロ入段以降、対戦数が二千局に達した。日本の囲碁界で二千局を達成したのは、林海峰名誉天元が初めてである。
記念すべき二千局目となった「第三回囲碁アジアカップ」は、日本、中国、韓国、台湾の四チーム、リーグ戦で行われ、台湾は第三位と振るわなかったものの、林海峰名誉天元は羽根直樹棋聖・天元と対戦し、勝利した。
対局後には祝賀会が催され、大勢の弟子や関係者が集まり、快挙を祝った。林海峰名誉天元の通算成績は1247勝、750敗、一ジゴ、2無勝負。通算勝利1247も史上一位だ。「二千局なんて大したことはない。これからたくさんの棋士が達成するだろう。張栩本因坊はこの一年で七十以上対局している。昔はいまより試合が少なかったため、坂田栄男、藤沢秀行両先輩は成績はよかったが、対局数は多くなかった」と五十年の棋士生活を振り返り、あくまで謙虚に語る林海峰名誉天元だが、氏はこのほかにも一九六五年に二十三才という史上最年少で名人位を獲得するなど多くの記録を持つ。
《台北『民生報』3月25日》
王立誠十段が四連覇
張本因坊・王座を下す
四月十五日、愛媛県で開催された第42期十段戦五番勝負(産経新聞社主催)の第4局で、黒番の王立誠十段が張本因坊・王座を下し、四連覇を飾った。王立誠十段は三年前に王座を獲得し、昨年棋聖を失ったが、十段は堅守し無冠転落を防いだ。四連覇は加藤正夫九段と並ぶ最多記録。
《台北『民生報』4月16日》
国家電影文化センター台北県に建設へ
台湾の映画と監督はいまや世界に広く知られているが、映画作品を保存し、教育のために公開する施設が不足している。このため、政府は十二億元(約四十一億円)余りを投資し、台北県の六千坪の用地に「国家電影文化中心」(国立映画文化センター)を建設することを決めた。場所は新荘市の副都心開発区内が有力だ。
映画に関する施設では、地方自治体が設立した「光點台北電影主題館」や「新竹市立影像博物館」があるが、国家レベルの施設はない。二十五年前に設立された「電影資料館」は、中国語、外国語映画約四万本、関連図書が一万冊、ポスターが二十万枚、写真が二万枚、それに前の台影文化公司の影像などを多数所有しているが、それらは現在台北県の工業区内の倉庫に保管されたままで、それらを整理展示し、公開する施設が求められていた。
《台北『聯合報』4月14日》
先住民の青少年雑誌が創刊
「Ho Hai Yan」!
台湾で初めての先住民の青少年向け雑誌「Ho Hai Yan台湾原Young」が、行政院原住民委員会出版、中華民国台湾原住民文化発展協会と山海文化雑誌社の編集でこのほど創刊した。
四月六日に台北国際芸術村でおこなわれた創刊記念の記者会見では、創刊号の特集「歌のなかの先住民語―セデック族の伝統歌謡観賞」に掲載された歌謡の独唱も披露され、先住民青年数名による「台湾原YOUNG心の声」と題した弁論も発表された。
原住民委員会によれば、この雑誌は先住民の青少年に自らの文化に親しみ、学ぶ情報を提供し、エスニックのアイデンティティーの源とその素晴らしさを追求し、自身の民族の文化に対する青少年の自信と誇りを育てることを主旨としており、隔月刊で毎回六千部発行、寄贈の形でスタートする。同会では「視野の広い先住民のYoung(若者)を育成するプラットフォームとしたい」と説明しており、将来は先住民の文化を多くの人々に伝え、文化交流の架け橋としたい意向だ。
●「Ho Hai Yan」 台湾原Youngとは
雑誌の名前にある「Ho Hai Yan」とは先住民族の伝統歌謡のなかで、繰り返し部分の掛け声としてよく出てくる言葉で、先住民のあいさつ言葉のイメージで定着している。また「台湾原Young」とは先住民青少年の若さと活力を表し、若者の熱い青春を象徴している。
【行政院原住民委員会】
「フェミニズム書店」が開店十周年
女性の交流の場提案して十年
四月十八日、台湾で初めてのフェミニズム書店「女書店」が、開店十周年を迎えた。「女書店」は一九九四年同日、台湾大学の校庭わきに開店し、婦人運動がまだ盛んでなかった当時から口コミで評判を広げ、各種勉強会や親子読書会などを開催しながら、女性たちの文化と知識の発信地となって来たという。当日開かれた祝賀会には、小さな店内いっぱいに十周年を祝う客が溢れた。
《台北『民生報』4月18日》
文化・芸能ミニ情報
蔡明亮監督が仏シュバリエ受章
台湾の若手監督として国際的にも有名な蔡明亮氏がさきごろ、フランスの文化芸術勲章(シュバリエ勲章)を受章した。この勲章は、ナポレオンが創設したフランス国家勲章の勲五等に当たり、フランス国家への功労者に与えられるもので、四月十四日にフランス在台協会で開かれた祝賀パーティには、クラウド・ゲイト舞踏団の林懐民総監督をはじめ、蔡監督との付き合いが長い苗天、石雋、楊貴媚ら役者陣も駆けつけた。
蔡明亮監督は九四年、「愛情萬歳」でヴェネチア国際映画祭のゴールデンライオン賞を受賞してヨーロッパの映画界で注目を浴び、フランスでの評判も高い。監督は現在、新作「天辺一朶雲」を制作中である。
《台北『青年日報』4月15日》
Kiroroが三年ぶり訪台
日本の若手デュオKiroroが、四月三日の台湾MTV主催の音楽イベント「Gala Party」にゲスト出演するため、三年ぶりに訪台し、新曲のほか中国語でも歌を披露した。Kiroroのヒット曲「長い夜」は、台湾の人気歌手レネ・リュウ(劉若英)にカバーされ、インターネットの投票で台湾のe世代がもっとも好きなラブソングの一曲に選ばれている。
《台北『中国時報』4月3日ほか》
マカイ医師の物語が布袋戲に
十九世紀に台湾で初めて近代医学の病院「馬偕医院」を設立したジョージ・レスリー・マカイ医師(牧師)の物語が、台湾の伝統人形劇・布袋戲(ポテヒ)になった。台湾南投県の新桃源布袋戲劇団の新作で、同劇団は現在カナダを巡業中だ。
《台北『中央社』4月21日》
文化ニュース
台湾で薬物アレルギーの遺伝子発見
世界初、今後の投薬事情に福音
中央研究院と長庚病院ではさきごろ、重篤な薬物副作用「スティーブンジョンソン症候群」を起こす薬物アレルギーの遺伝子を発見したことを明らかにした。同症候群は投薬によって突発的に皮膚粘膜が火傷状態となり、危篤状態にも至る。今後は患者がこの遺伝子を持っているかどうかを血液検査で事前に予測できるようになり、医療現場に新たな福音をもたらすこととなった。
今回の発見は欧米など各国の研究機関や大手薬品メーカーが研究を進めるなか、世界初の薬物アレルギー遺伝子の発見となり、四月一日に国際的著名科学雑誌「ネイチャー」に発表された。
《台北『中国時報』4月1日》
●先進技術で蛍光色に光る観賞魚
最近の台湾における遺伝子組み替え技術の進歩は目を見張るものがある。台湾の観賞魚開発メーカー邰港科学技術(Taikong Group社)では、遺伝子組み換え技術によって身体が赤く光るように改良された観賞蛍光魚を発表した。同社がこれまでに開発した蛍光観賞魚にはいずれも繁殖能力がなかったが、今回クラゲとサンゴの遺伝子を取り込んで新しく発売された「レッド一号」は、一回だけ繁殖できるよう改良され、単価は百三十元(約五百円)とやや高級だ。
同社では今後、観賞用のほかに、水質の異常に反応して蛍光色に変わるなど、特殊機能を持つ魚の開発にも取り組む予定だという。
《台北『中国時報』4月1日》
墾丁にカマスの群れが出現
二十年来初めて千尾規模
今年の冬、墾丁国家公園で大規模なカマスの群れが確認された。カマスは美しい形の群れをつくることで有名だが、今回発見されたのはこの二十年来最も多い一千尾以上の体長五十~七十センチのカマスの群れで、その壮麗な姿は海外のダイビングスポットに劣らないという。今年の冬は寒さが厳しく、旅行者が少なく海域が静かだったことが原因と見られており、関係機関ではこの貴重な群れの保護を公式に呼びかけている。
《台北『中国時報』4月1日》
台北春季コンピューター展が盛況
ノートパソコン、デジカメとも好調
三月三十一日からおこなわれていた台北春季ソフトウェア・コンピューター展が四月四日、盛況のうちに閉幕した。来訪者延べ人数は五日間で合計三十万人、週末は一日六万八千人に上り、単日での売り上げは例年の三割以上の伸びを見せた。今回人気が集中したのはノートパソコンで、ヒューレッドパッカードでは二週間前に発売した新機種を含め、最高七千元(約二万五千円)引きの特別価格を打ち出した。エイサーでも全機種の値引き幅を平均五千元とするなど出血大サービスで、メーカー各社の平均売上げ台数は二~三千台となった。デジタルカメラの売り上げも前年比五割アップし、ブースには絶えず人の波が押し寄せ、販売店は対応に大忙しとなった。
今回の展示会では女性専用のハイテク商品コーナーが設置され、赤や黄色の服を着ている女性には入場無料にするなど、女性をターゲットにした企画もあり好評を博した。
《台北『青年日報』4月4日》
台湾生活美学叢書が出版
生活に根付いた文化創造を
台湾の特色ある生活工芸品を幅広く紹介する「台湾生活美学シリーズ叢書」が、行政院文化建設委員会(以下、文建会)監修、国立台湾工芸研究所企画、生活美学館の編集出版により、このほど完成した。「新生活美学」、「新美食美器」、「新蘭花花器」、「新生活工芸」など全十巻からなるこのシリーズは、優れた技を持つ職人百人以上と優良な創作メーカーに取材し、台湾の質の高い陶磁器や食器、紙製・金製工芸品、竹細工などを、写真をふんだんに取り入れて紹介している。
文建会では、文化創意産業の推進策として、台湾独自の審美眼に基づいた「生活美学」の創造を提案しており、今回の叢書出版について「このシリーズは、わが国の優れた工芸品を人々の生活に浸透させ、台湾の生活美学を創造するための実用書としたい。これにより市場の需要を高め、さらに秀逸な作品が生まれるよう好循環も促したい」と述べている。
《台北『中国時報』3月20日》
文化・芸能ミニ情報
大人も熱中の人形コレクション
玩具に夢中になるのは、子供だけとは限らない。最近、台湾のコレクターに人気なのが、「少年阿虎(スター・ランナー)」映画の主人公をモデルにしたフィギュアである。この映画はボクサーが男の理想に向かって戦うストーリーで、不滅のヒーローを緻密に再現した人形は、細かい関節まで自在に動かせ、顔の造りはこの映画で銀幕デビューしたアイドルグループ「F4」の呉建豪(ヴァネス・ウー)に瓜二つの精巧さだ。女性には、バービーならぬ羽西(バーシー)が人気だ。バービー人形はアメリカのロングセラー玩具としてあまりにも有名だが、最近中国でこれに対抗し、豪華なチャイナ・スタイルのバーシー人形が発売され、王朝風衣装や髪飾りなど優雅な細工に、大人の女性までが夢中になっている。これらの人形はいずれも価格は高めだが、販売店に行列ができる人気ぶりだという。
《台北『中国時報』3月26日》
新刊紹介
そのとき自衛隊は戦えるか
井上和彦 著
日本の自衛隊が発足してから今年は五十年になる。世界最新鋭のイージス艦や世界最強のF15戦闘機やハイテク国産戦車を保有する自衛隊が、もし実戦の場合どれだけの戦力を発揮するのか。イラクへの派遣やテロ対策、また集団自衛権など、今後の法整備等の問題も踏まえ、その真相と問題点に鋭く迫る。
特に第六章「自衛隊もし戦わば━中国人民解放軍との戦い」では、日中の海空戦力に触れ、中国軍の能力を測定する。即それは台湾軍の迎撃能力の測定にもなる。中国は今、米国にハイテク兵器の台湾への売却をしきりに牽制しようとしているが、そこには中国軍の隠された弱点が秘められている。台湾にとって米国の「台湾関係法」は最大の盾となっているが、日米同盟も台湾の盾となる可能性が極めて高い。本書はそれらをも示唆する。
〈扶桑社刊 ¥1500税込〉
お知らせ
第52回新日台交流の会
日 時 5月15日(土)午後3時~
テーマ 台湾総統選挙をふまえての東アジア情勢
ゲスト 西倉一喜氏(共同通信社 編集委員 論説委員)
会 場 日華資料センター3F会議室
問合せ 日華資料センター
Tel 03-3444-8724
※参加費無料。ただし、事前に電話で申し込み必要。
交 通 地下鉄三田線、南北線「白金高輪駅」2番出口徒歩3分
『中国語フリー・トーク』
毎月一回、台湾人の講師の選んだテーマにそって、中国語の単語や会話を練習していきます。
日 時 毎月第三土曜日午後一時30分~3時 ※参加無料
講 師 李慧君さん(元国立中山大学華語教学中心講師)
会場・問合せ 日華資料センター(TEL03-3444-8724)
春 夏 秋 冬
もうシーズンを過ぎてしまったが、桜が日台間の絆(きずな)の強さを象徴している話を一つ。昨年2月、日本の民間非営利団体「育桜会」(園田天光光会長)と「霞会館」(旧華族会館)が「李登輝友の会」を通じて台湾に桜の苗木200本を贈った。贈ったといってもそれは生き物であり、ただ搬送して済むというものではない。難問がある。日本と台湾では気候が異なる。そこで財団法人「日本花の会」が協力して温暖地に強い三品種が選ばれた。これで問題が解消したわけではない。その苗木200本は台湾大学の農林試験所で慣らされてから、これなら大丈夫ということで台北の陽明山公園、桃園鴻禧山荘、新竹市立動物園に移植され、そして花を咲かせた。
そこに至るまで、台湾で唯一、日本の「樹木医」の認定を受けている楊甘陵さん(79)の努力があった。東京農業大学園芸学科を卒業している楊さんは、日本の草木に詳しく、また日本の国家認定である樹木医600余名のうち、唯一の外国人でもある。
楊さんは台大試験場の土壌を調査し、さらに試植された一本一本の成長記録をつけた。さらに陽明山など移植先の土壌を調べ、万全の用意を整えたことなど言うまでもない。もちろんそこには、「李登輝友の会」のメンバーや台湾大学ならびに移植先の行政のなみなみならぬ支援があった。移植後ももちろん、一本一本の成長記録はつけられている。それによると、品種によって成長のスピードが異なるそうだ。
この過程の中で、昨年秋に花が咲いたことに、日本の関係者は「台湾は二度も桜が咲くのか」と驚いたそうだ。桜の木は、台湾の秋を日本の春と間違ったのではあるまいか。ともかく桜は順調に育ち、現在に至っている。
桜に限らず、日本の苗木が海外に出て、これほど大事に育てられている例は他にないのではないか。育桜会が桜の苗木を贈ったのは台湾だけではない。中国と香港にも贈っているのだ。これらは、すべて枯れてしまった。ここに、心の交わりの大きな差が感じられる。育桜会では、最も育ちのよかった品種を中心に、一万本を目指して台湾に桜の苗木を贈り続ける計画を立てている。新竹市政府は「移植地は楊甘陵さんに選定してもらい、もちろん移植の費用はすべて市でまかない、心をこめて日本から贈られた桜の木を育てている」と話している。台湾各地に日本桜が一斉に咲く日はそう遠くない。それらの一本一本に、日台の心がこもっているはずだ。双方の絆は、さらに強まろう。
(K)