台湾週報2166号(2004.11.11)
台湾は厳然たる主権独立国家 パウエル発言の誤謬に強く反論
パウエル米国務長官が北京で「台湾は独立国家ではなく国家主権を備えていない」などと発言したが、帰国後「米国の対台湾政策に変化はない」と訂正した。だが台湾政府はこの北京での発言に強く反発し、行政院スポークスマンや大陸委員会が相次いで、台湾が主権独立国家であることは何人も否定できないと表明し、游錫堃・行政院長も金泳三・元韓国大統領との会見において独立国家としての台湾を強調した。
●パウエル発言の真相
日本、韓国に次いで中国を訪問したパウエル米国務長官は十月二十六日、北京市内で胡錦濤・国家主席ら中国政府要人と会見し、また香港フェニックステレビのインタビューに応じ、パウエル・胡錦濤会談の内容を明らかにした。それによれば、パウエル長官は「軍事構造は台湾海峡にある種の緊張と不安定を作り出し、台湾に兵器購入の圧力をもたらしている。米国は台湾関係法により台湾の防衛力を検証する義務がある。したがって米国は常に中国に対し、中国の軍事配置は台湾海峡の不安定を招いており、米国はさらに多くの兵器を台湾に輸出するところとなっていると指摘している」と語った。
さらにフェニックステレビの記者が「台湾は台湾独立を宣言する必要はなく、なぜなら台湾はすでに主権独立国家だからだと表明している。二十六カ国が台湾を正式承認しているが、米国はこれをどう見るか」と質問したのに対し、パウエル長官は「中国は一つであり、台湾は独立国ではなく国家主権を備えていない。これによって台湾は民主制度と市場経済を発展させた。米国はこの政策を大事にしており、これからも継続する」と語った。
これについてアダム・エレリー米国務省副報道官は同日、定例記者会見において「米国の対台湾政策に変化はない。米国は台湾海峡両岸が対話によって対立を平和的に解決することを望んでいる。パウエル国務長官は新たな政策を表明したのではない」と語った。パウエル長官も帰国後の二十七日、米CNBCテレビのインタビューに応じ「米国の両岸問題に対する正式用語は『平和解決』であり、これが正式な用法であり、米国の政策である」と語った。
《台北『聯合報』10月26~29日》
●台湾は主権独立国家
パウエル米国務長官が「台湾は独立国ではなく国家主権を備えていない」と語ったことについて、陳其邁・行政院スポークスマンは十月二十六日、要旨次のように表明した。
○ ○ ○
政府は米国の対台湾政策に変化がないことの確証を得ている。米国務省の副報道官は定例記者会見において「米国は台湾関係法に基づく台湾に対する公約を確実に履行する。その政策の要点の一つは、台湾海峡両岸が対話を通し、双方が同意する方法によって台湾海峡の争議を平和的に解決することを支持し、いかなる一方も一方的な行動をとることに反対するというものである。パウエル国務長官は北京での会談において新たな政策を提示したのではなく、会話の重点は両岸対話と平和解決を奨励するというものであり、変化を暗示するものでもない。
台湾は主権独立国家であり、中華人民共和国の一部分ではない。これは厳然たる事実である。陳水扁総統は今年の双十国慶節の談話の中で、「中華民国の主権は二千三百万の台湾国民に属しており、中華民国はすなわち台湾であり、台湾はすなわち中華民国である。このことは何人といえど否定できない」ときわめて明確に述べている。
台湾は完全な自由民主の社会であり、いかなる個人も政党も国民に代わって最後の選択をすることはできない。台湾の前途と両岸関係のいかなる進展についても、二千三百万国民の同意が必要であり、平和的な方法で両岸の対立は解消されるべきである。政府の両岸政策にはいかなる変更もなく、それは陳水扁総統の五月二十日の就任演説と双十国慶節の談話を基調としたものだ。
【行政院新聞局 10月26日】
●世界は現実を直視せよ
行政院大陸委員会も十月二十七日、パウエル発言について要旨以下の談話を発表した。
○ ○ ○
中華民国は主権の独立した国家であり、台湾海峡両岸は互いに隷属していない。これが現状であるとともに現実である。台湾の前途および両岸関係の将来の進展がいかなるものであろうと、二千三百万の台湾国民の意見を尊重したものでなければならず、かつ平和的に対立を解消するものでなければならない。いかなる国家も政府も台湾海峡両岸関係の進展に関心を持つことを台湾は歓迎する。ただし何人といえど中華民国が主権独立国家であるという現状と事実を否定することはできず、開放的な選択を将来の両岸関係の進展方向とすべきであり、またそれを尊重しなければならない。
中国国務院台湾事務弁公室は本日(10月27日)の記者会見で、パウエル国務長官の談話を拡大解釈し、台湾の民主主義促進を批判していたが、陳水扁総統は五月二十日の就任演説の中で、中国当局が「一つの中国」を堅持することへの理解を示し、同時に中国に対し、台湾国民の民主と平和を愛し、生存と発展を求める固い信念を理解すべきだと呼びかけた。中国が同じ精神をもって陳水扁総統の国慶節談話での提議を正視するよう希望する。
また、両岸チャーター便直航の問題については、双方が政治的ないかなる前提条件も設定しないという状況下に、わが方はすでに「双方が航空機を飛ばし、直航する」ことを提案し、善意と弾力性をもって話し合うことを提議している。われわれは中国側が適切な人物を派遣し、わが方と話し合うことを歓迎する。
両岸が争議を平和的に解決することは、両岸の相互連動において避けられないことである。双方が共に責任を分担し、対話を通じて両岸の長期的な安定に対してコンセンサスと具体的な方法を見出すべきである。現段階においては、わが方は両岸の衝突回避と公約の遵守に最大の努力を払っている。中国が両岸人民の福祉を擁護するという前提下に、話し合いと良好な相互連動に応じることを希望する。
【行政院大陸委員会 10月27日】
●行政院長も主権独立を強調
游錫堃・行政院長も十月二十八日、台湾訪問中の金泳三・元韓国大統領と会見した折「台湾は中国の一部分ではない。台湾が主権国家である事実はいかなる人もいかなる国も否定できないことだ」と強調した。
この会見の中で游院長はまず、金元大統領が折からの台風を押し、かつ中国の圧力や利益誘導を跳ね返して台湾を訪問したことを高く評価し、また金元大統領が両国の定期航空路再開と各種交流の発展に尽力していることに感謝の意を表明した。同時に金元大統領が今後も影響力を発揮し、さらに多くの交流を促進し、台韓間の閣僚クラスの相互訪問を実現し、台湾のWHOなど国際機関への加盟を支持するよう要請した。
この会見の過程で游院長は「中華民国は現実に存在し、長期において自己の国民、国土、憲法、政府を保持している。これは主権独立国家としての形態である。韓国と台湾は共通の価値観を持っており、長期にわたって平和と民主、自由、人権を追求してきた。両国関係は良好であり韓国は台湾にとって四番目の輸入相手国だ」と強調した。
さらに游院長は「台湾、韓国、日本は共に東アジアにあり、もし三国が防衛と安全相互信頼関係の構造を構築し交流を強化したなら、東アジアの平和と安定に大きな貢献ができるだろう」と述べ、金元大統領が韓国において台韓日が安全フォーラムを結成する活動を起こし、アジア太平洋地域の安全と安定に貢献するよう要請した。
これに対し金元大統領は「米国大統領に誰が就任しようとも、米国の台湾政策は変化しないと認識している。台湾を取り巻く国際情勢には厳しいものがあるが、中国は過去一日たりとも台湾を占拠したことはなく、台湾が毅然とした態度で自己の立場を堅持し、当面の困難を克服することを確信している」と語った。
【行政院新聞局 10月28日】
石原慎太郎・東京都知事が台湾訪問 台湾一周列車試乗で東部観光発展を示唆
●陳水扁総統と会見
石原慎太郎・東京都知事は十月二十四日から五日間の日程で台湾を訪問した。石原知事の訪台はこれで五度目になるが、今回は特に十月三十日から運行される台湾一周豪華観光列車に前もって試乗し東部の観光地を訪問するなど、台湾観光の宣伝に一役買った。
また訪問最終日の二十八日、台北で陳水扁総統と会見した。石原都知事が今年五月の陳水扁総統就任式に参列して総統と会見した折、日台交流の拡大と日本シルバー族の台湾観光客の掘り起こしについて話し合われた。台湾一周豪華観光列車の運行は、この観光客倍増計画に大きな助けになると思われ、正式運行に先駆けて石原都知事が試乗し、日本でも大きく報道されたことは、台湾の観光政策にとって意義あるものとなった。また石原都知事は、台湾から日本を訪れる台湾人観光客のビザ免除や日本の高校生の台湾修学旅行の増大にも尽力しており、陳水扁総統はこれらについて感謝の意を示した。
正式運行前の台湾一周列車に石原都知事が試乗し、それが台湾を襲った台風の影響がまだ残っていた期間でもあったことから、一部の現地マスコミが「特権行使」だとか「行き過ぎた優遇」などと非難したことに対し、陳総統は「台湾は台湾の友人を大切にしている。また石原都知事の台湾一周観光列車への試乗は、台湾の観光政策に大きな意義があるものであった。一部においてこれが曲解されることはきわめて残念なことだ。これがどうして特権だなどと言えようか。石原都知事には、これらを意に介さないで欲しい。私は石原都知事が、台風の影響がまだ残っているにも関わらず、時間の都合をつけ日程をこなしてくれたことに感動している」と、一部マスコミの心ない報道に遺憾の意を表明した。
さらに陳総統は「特に石原都知事のように、台湾が主権独立国家であることを支持している友人に対しては、台湾国内では同じように統一派や大中国主義者たちから無情な非難や中傷を受けるものだ」と語った。同時に「台湾は確固とした主権独立国であるが、台湾二千三百万国民は百パーセントの主権を行使できない状態に置かれている。これは国際社会が台湾に対しきわめて不公平な扱いをしているからだと言わねばならない」と表明した。
これに対し石原都知事は「意に介していない。なぜなら、それは一部のメディアがマスコミ効果を狙って悪意ででっち上げた中傷にすぎないからだ」と表明した。また観光については「台湾の年配者には日本語が話せる人が多く、日本のシルバー族には退職後、時間と金を持っている上にきわめて健康であり、情緒を求めて旅行をする人が多い。台湾はこうした選択に最適のところだ」と語った。さらに東部観光について「宜蘭、花蓮、台東は壮大な海岸線を持ち風光明媚なところだ。特に宜蘭には来年高速道路が開通すれば、台北から四十分の距離となり、マリンスポーツの観光地として発展する可能性がある。そうなれば関連産業の発展を促すばかりか、シルバーだけでなく若い人たちも吸収し、地方の発展を促進することになる」と台湾東部観光の発展を示唆した。
【総統府 10月28日】
●李登輝前総統と意見一致
十月二十四日に訪台した石原都知事は初日に李登輝前総統を訪問し、日台関係、日中関係、アジア情勢、その他の国際問題などについて意見交換した。このうち中国情勢について「自然環境のますますの悪化、労働争議の頻発、社会不安の拡大などにより、中国は外から見るほど強大ではなく、中国の社会問題はすでに飽和点に達しており、現在がその転換期にある」との点で意見の一致を見た。
このなかで李前総統は「重慶、河南、浙江などで暴動が発生し、参加者は一般庶民、学生から炭鉱夫まで含まれている。上海では近代的な高層ビルが立ち並んでいるが、裏に回れば暗い路地に平屋が並び、低所得層が寄り合い、中国の社会問題がきわめて深刻であることを示している」と語った。石原都知事は「サッカーのワールドカップで見せた中国人サポーターの醜態は理解に苦しむ」と述べ、中国の将来の発展、貧富の格差増大に懸念を示した。
《台北『台湾日報』10月25日》
●石原知事、東部台湾の旅
石原都知事は十月二十六日、台湾一周豪華観光列車「宝島之星」に乗り、台湾東部二泊三日の旅に出かけた。この旅には特に林陵三・交通部長が同行した。実は林部長は昨年訪日した折に石原都知事と会見し、さらに石原都知事が今年五月二十日の総統就任式に列席した時に再会見し、日本人観光客の台湾誘致に協力して欲しいと依頼した。石原都知事は快諾し、そこで考えられたのが日本のシルバー族と青年層をターゲットにした鉄道と温泉の旅であった。そこから企画されたのが、石原都知事が直接台湾の観光列車に乗り、台湾の風景、美食などを日本に紹介するというものであった。
出発に際し石原都知事は記者団に対し「台湾の観光は中国大陸よりも魅力に富んでいる。台湾の温泉、風景、食事は日本人の好みに合っており、設備も良好で飲食も清潔で、発展の潜在力を秘めている。日本から多くの観光客が訪れることを望む」と語った。
この旅には一部マスコミがいわれのない中傷をするという一幕があったが、余宗柏・花蓮県観光協会理事長と劉清郎・台東県観光協会理事長は十月二十八日、連名で「石原都知事の来訪は東部台湾への日本人観光客誘致の起爆剤になる」として、石原都知事への感謝の意を表明した。
《台北『自由時報』10月27~29日》
金泳三・元韓国大統領訪台 台湾の国際環境に理解示す
金泳三・元韓国大統領がこのほど台湾を訪問し、十月二十六日に陳水扁総統と会見した。このなかで陳総統は、金元大統領が一九九二年に韓国史上初の文民大統領として選挙に当選し、以来韓国の現代化と民主化に大きく貢献したことを高く評価した。同時に陳総統は「台湾では二〇〇〇年に政権の平和的移行を実現し、さらに私と呂秀蓮副総統は台湾の国民によって第十代正副総統に再選された。ここで明白なのは、中華民国は確実に存在し、台湾が主権の確固として独立した国家であり、中華人民共和国には隷属していないということだ。これが現状で事実なのだ。この現状と事実は、国際社会のいかなる国も否定することはできない」と指摘した。同時に「私は台湾の指導者として台湾の主権と尊厳、安全を護り、台湾国民の福祉を高めなければならない。その一方において、私は台湾海峡の平和とアジア太平洋地域の安定を忘れたことはない。このため中国には善意を示し、話し合いの再開を常に呼びかけている」と表明した。これに対し、金元大統領は同意を示した。
また金元大統領は二十八日、陳唐山・外交部長と会見し、前中国国家主席の江沢民が金元大統領に「台湾問題はまだ解決されていない」と語ったことを明らかにし、新主席の胡錦濤も「江沢民となんら変わりはない」と指摘した。さらにパウエル米国務長官が台湾の主権を否定するような発言をしたことについても言及し、「台湾は成熟した民主主義の政治構造を有し、確実に独立した主権を持つ国家である」と強調した。
《台北『台湾日報』10月27・29日》
ニュース
新潟の震災に慰問と義捐金 台湾から支援の用意伝える
●外交部が慰問の言葉を表明
十月二十三日に発生した「新潟県中越地震」で多くの被害が出たことに対し、陳水扁総統、呂秀蓮副総統、ならびに游錫堃・行政院長、陳唐山・外交部長は同日、ただちに日本各界に対し慰問の言葉を表明するとともに、駐日代表処および亜東関係協会を通じて被災者へお見舞いの言葉を伝え、台湾から支援の用意のあることを日本の消防関係機関に伝えた。
【台北駐日経済文化代表処10月23日】
●新潟県を訪問、義捐金手渡す
陳鴻基・台北駐日経済文化代表処副代表一行が十月二十六日、新潟県庁を訪問し、台湾から見舞いの言葉を述べるとともに、震災義捐金として二百万円を手渡した。
陳副代表は陳水扁総統の代理として新潟県庁を訪問した。この日、泉田県知事は小泉首相と震災地の視察に出かけ留守だったため、関根洋祐・出納長が代わりに応対した。
陳副代表は陳総統ならびに台湾国民の被災者に対するお見舞いの気持ちを伝え、義捐金を手渡した。これに対し関根出納長は「今年七月の豪雨災害の際に、台湾から交流協会を通して福井県と新潟県に義捐金をいただいた。今回また震災のために義捐金をいただき、台湾の政府ならびに国民の温かい思いやりに心から感謝を申し上げたい」とお礼を述べた。
陳副代表一行はこのあと「新潟県中華親睦総会」を訪問し、現地の僑胞を慰問した。
【台北駐日経済文化代表処10月26日】
陳総統が亀井議員と会見 台日交流への貢献に感謝
陳水扁総統は十月二十五日、友好訪問団百五十名とともに台湾を訪問中の亀井久興・衆議院議員と会見し、意見交換した。
陳総統はこのなかで、亀井議員が自民党内で長い間要職を務め台湾に対し一貫して友好と支持を示し、長期にわたり台日交流の促進に貢献したことに感謝を述べた。また亀井議員が台湾の旅行者に対するノービザ適用措置と、来年から始まる愛知万博に触れたのに対し、陳総統は「多くの方々の努力と、亀井議員、平沼議員らの支持により、来年正式にノービザが適用されることを強く期待したい」と述べ、「愛知万博には台湾から多くの観光客が訪れるだろう」と語った。
さらに、台日の自由貿易協定(FTA)締結について陳総統は「中国市場が大きな吸引力となっているなか、台日がFTAを締結してこそ、台湾だけでなく日本の貿易バランスも保つことができる」と強調した。
【総統府 10月25日】
日台友好議員懇談会が開催 台日交流のさらなる促進を決議
日本民主党「日台友好議員懇談会」の年次総会が十月二十九日開催され、台湾とのさらなる交流促進を決議するとともに、早期に訪問団を組織し、台湾との政党交流を強化することが話し合われた。
同懇談会は衆議院議員五十名、参議院議員十七名からなり、同日池田元久議員が新会長に就任した。年次総会には許世楷・駐日代表も出席し、新潟県の震災に対し陳総統はじめ台湾国民が心を痛めていることを伝えた。また、許代表は民主党議員の台湾に対する友好と支持に感謝するとともに「台湾の旅行者に対するノービザ適用が台日双方の交流強化につながる」と述べた。
許代表はまたさきごろ岡田克也・民主党党首と会見した際、武力で台湾問題を解決しようとする中国に反対することで意見が一致したと述べ、「今後の台日関係は現在の国際情勢と地域の利益に合った形に調整していくべきだ」と強調した。
【台北駐日経済文化代表処10月29日】
辜汪会談六周年の回顧と展望
呉釗燮・行政院大陸委員会主任委員
呉釗燮・行政院大陸委員会主任委員は十月十六日、辜汪会談六周年に当たり、海峡交流基金会で講演し、「両岸ともに勝利する未来を創るため、中国の積極的な反応を期待する」と述べた。以下は、その要旨である。
一、国慶節談話の重要意義
陳総統の国慶節談話の重要意義は以下の通りである。
①平和のオリーブの枝
陳総統は今年の国慶節談話で両岸関係に触れ、「平和のオリーブの枝」を差し出し、自信、責任、誠意、開拓と前向きな姿勢をもって、中国に十分に善意を示した。陳総統が提案した両岸関係の新たな概念と視点は、両岸が共に努力するならば、両岸平和と発展に向け、新たな契機となるだろう。
②公約を堅守する
陳総統は、二〇〇〇年及び〇四年の就任演説で、国際社会に対し、いくつかの公約をした。また今回の国慶節談話においても、五月二十日の就任演説で宣言した内容を改めて表明した。すなわち陳総統は今後の任期中、憲政改革をおこなううえでも、台湾の現状を一方的に変えることはないということだ。ただ台湾国民二千三百万人が同意しさえすれば、われわれは中国といかなる関係を構築することも排除しない。
③両岸衝突の機会を減らす
陳総統は国慶節談話で、両岸が長期的な角度から、ともに兵器の管理体制を研究し、敵対関係を終結させ、軍事面で相互信頼のメカニズムを構築し、両岸の軍備政策を検討し、「海峡行為準則」などの提議を検証し、それにより予測と管理が可能な両岸関係を構築し、台湾海峡の長期的平和の基礎作りをすることを望むと述べている。
④三通のルートを構築する
二〇〇一年に総統府経済発展諮問委員会が召集された後、政府は本委員会の決議に基づき、両岸三通に関する準備を積極的かつ具体的に進めている。陳総統は国慶節の談話で、関係省庁は現在、両岸の「人と貨物のチャーター便」早期実現のための方案を策定していると述べた。われわれは最大の柔軟性をもって方案の実現を促し、両岸三通ルートを構築したい。
⑤国内におけるコンセンサス
台湾国民全体の意向は、両岸政策決定のカギである。国民のコンセンサスを得るため、陳総統は立法委員選挙後、与野党のリーダーを招き、「両岸平和発展委員会」を組織すると宣言した。本会の設立により、与野党間のコンセンサスを凝集し、内部衝突で起こる消耗を軽減し、両岸間の交流と交渉を積極的に展開できるよう希望する。
⑥すでに基礎はある
一九九二年に海峡交流基金会(以下、海基会)と海峡両岸関係協会(以下、海協会)が香港で会談したことは、「争議を棚上げし、実務的に協議し、問題を解決する」という姿勢をはっきりと表し、九三年には、ついにシンガポールで辜振甫・ 海基会理事長と汪道涵・海協会会長による「辜汪会談」が実現した。陳総統は今年の国慶節談話で、両岸が「九二年香港会談」を基礎とし、ともに関心を寄せる課題について実務的交渉を行うことを強く希望した。われわれは両岸がともに利益を得、中国がわれわれ同様「ともに勝利する」を政策の最重要指針とし、両岸交渉が再開されることを期待する。
二、辜汪会談の再開を期待
一九九二年、海基会と海協会は香港で会談をおこない、翌一九九三年四月、ついに歴史的な「辜汪会談」が実現した。この際、「両岸の公証書使用査証の取り決め」、「両岸の郵便書留についての問い合わせと補償についての取り決め」「両会の連携と定期会談の取り決め」および「辜汪会談の共同取り決め」の四つの取り決めに調印した。
さらに九八年十月には、上海での辜汪会談が実現し、「双方は対話の強化に同意し、これにより制度化された交渉を促す」、「双方は国民の権益に関わる個別案件に同意し、積極的に協力して相互に解決する」などのコンセンサスが得られた。またわれわれは汪道涵氏の訪問を要請し、汪氏はしかるべき時期に台湾を訪問することに同意した。九三年と九八年は、一九四九年以来、両岸が世界からもっとも注目と評価を集めた記念すべき年であった。そこで得られたコンセンサスは、両岸の良好な相互連動におけるもっとも重要な礎となった。はっきりしているのは、九二年の香港会談の基礎なしには、九三年の辜汪会談、また九八年十月の上海での辜汪会談は実現しなかったということだ。
歴史の大河は絶え間なく流れており、九八年もまた、両岸交渉の歴史において終点ではない。こうしたなか両岸人民は、辜理事長と汪会長が三度目の会談を実現させ、さらに歴史的意義の深い、微笑みと暖かみのある感動的な会合が行われ、九八年に合意に達さなかったあらゆる交渉の継続を望んでいる。またこうした国民の願いに応えるため、私は今年五月二十八日に、汪道涵会長の台湾訪問を公式に要請し、汪会長が旧い友人すなわち、海峡両岸人民の尊敬を集める辜振甫理事長に会いに来てくれるよう申し入れた。この歴史的瞬間が一日も早く来るよう、私はこの同じ場所で、ふたたび衷心からの誠意をもって、汪会長の台湾訪問を公式に要請したい。それにより、汪会長みずからが台湾国民の誠意と熱い歓迎を感じ、辜理事長とともに、両岸人民を感動させる歴史の新しい一ページをふたたび開いてほしいと願うものである。
三、具体的交渉
台湾海峡両岸は、この十数年の頻繁な経済貿易と人的往来を経て、すでに多くの、ともに真摯に向かうべき問題を蓄積している。すなわち、貨幣の精算、投資保障、金融管理、二重関税の回避、貨物輸入、知的財産権の保護、司法の互助、商務上の仲裁、漁業争議の仲裁、人身の安全、チャーター機と直航便、観光、密航者送還、犯罪の共同防止、海洋汚染、漁業協議などである。これらはすべて双方が関心を持つ課題であり、政治的問題にとらわれず互いに成果を上げることが可能だ。
一九九九年、両会による接触と交渉は中断され、二〇〇〇年の就任以来、陳水扁総統は常に善意を示してきたが、結果はまだ出ていない状態である。それから五年、両岸は直接の意思疎通が出来なかったため、誤解が深まり、信頼は希薄になったが、こうした状態は中国が望んでいるものではないと信じている。両岸が実質的な課題について具体的交渉に入れれば、必ずや相互理解と信頼を深め、両岸の未来に新たな局面を切り開くことができ、衝突の時代から積極的に協力する新しい時代が開けると確信している。
四、平和と発展
さきごろ閉会した中国の第十六期中央委員会第四回全体会議では、中国の汚職、貧困、失業問題などを含む十数年来の政治、経済、社会における課題が報告された。中国は内部問題を解決するため、平和で安定した対外環境を必要としている。両岸には軍事上の衝突があり、偶発的事故が収拾のつかない事態を引き起こすと懸念する人は多いが、われわれは中国とともにこうした状況に対峙し、軍事関係者の相互訪問、情報交換、緊急救援ホットラインや演習の相互通告などの内容を盛り込んだ「海峡行為準則」を制定することを望んでいる。両岸双方が平和と発展に対し共通の期待を持ってさえいれば、両岸は接触と交渉によって「海峡行為準則」の合意と協議に達することができ、それにより平和交渉がスムーズに推進される環境条件を整備するのに有利となり、軍事衝突を回避する平和安定と相互連動の枠組みを構築できる。
五、一歩を踏み出す
「平和と発展」は、両岸共通のキーワードであり、一貫した根本理念である。中国はさきごろ、「両岸関係の平和安定は両岸同胞の利益と願いに合致しており、交流を強化し、協力を拡大し、理解を深め、相互信頼を育て、両岸関係のともに利益を得て勝利する未来を切り開くことに同意する」と表明した。目標達成のため、双方が勇気を出して善意の第一歩を踏み出すことを希望する。そうしてこそ、辜汪会談はふたたび実現し、具体的交渉が進み、平和安定の相互連動の枠組みが構築できると思っている。「人と貨物のチャーター便」の政策では、すでに善意あふれる大きな一歩を踏み出しており、われわれは忍耐強く、善意を持って中国からの積極的な反応を待っているのである。
【行政院大陸委員会 10月16日】
平和への危機にどう対応すべきか①
軍事力拡大を続ける中国と台湾の対応策
中国は台湾への武力使用の可能性を公言し、ますます軍事力を強大化させている。これに対し台湾はどう対処しなければならないか。中国の軍事状況を考察しながら、台湾の対応策をしばらく連載したい。
一、脅威の元凶を見る
一、拡大続ける中国軍の状況
(一)兵力状況:中国軍(常備軍)の現有兵力は二百二十万人で、そのうち第二砲兵隊(ミサイル部隊)は約十三万人で全体に占める比率は六%、空軍は約四十万人で同一六%、海軍は約三十万人で同一五%、陸軍は約百四十万人で同六三%である。
(二)第二砲兵隊(ミサイル部隊):およそ二十個ミサイル旅団で構成され、戦略弾道ミサイル百余基、戦術弾道ミサイル六百余基を保有する。中・長距離ミサイルおよび大陸間弾道ミサイルは大国への牽制を主たる目的とし、短距離弾道ミサイルは台湾への攻撃を主要な目的としており、二〇〇六年には東風11、15などの弾道ミサイルが八百基に達すると思われる。このほか目下開発中である陸上および航空機から発射する紅鳥系巡航ミサイルは二百基を保有すると見られ、これは射程千海里で精度もきわめて高い。
(三)空軍:現有戦闘機数は三千余機で、殲型、強型、轟型を中心に「軍区配備、重点配備」によって「攻守兼備」の方式で大陸周辺空域を行動範囲としている。六百海里内を通常の行動範囲とする戦闘機は約七百機で、二百五十海里を範囲とするのは約百機である。新一代に属する戦闘機としてはスホイ27、スホイ30、殲10、殲轟7、轟6型など約三百機を保有し、これらは目下増産中であり、二年以内に四百機に達すると思われる。同時に空中早期警戒機、電子戦闘機、偵察機なども積極的に増強しており、台湾に対する遠距離攻撃の精度は向上すると思われる。
(四)海軍:北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊の三個艦隊で構成され、作戦艦艇数は約一千隻で、東南沿海部を重点水域とし、福建省沙埕から広東省汕頭地区の間に約二百隻を配備している。近年、大量に新型艦を国内建造および国外から輸入しており、二年後には新一代に属する水上艦は七十隻を越え、性能の比較的優れた潜水艦は四十隻を越えると見られる。さらに新型武器の装備により、遠距離攻撃および水域防空能力も持続的に増強している。
(五)陸軍:総兵力百四十万人余で、兵力の重点配備は東南地区(南京軍区、広州軍区)と京畿地方(北京軍区)、それに戦略予備隊(済南軍区)の三個集団軍であり、これらは中国中枢地域の防衛のほか、他地域への作戦支援も任務としている。福建省には一個集団軍約六万人が配置されている。このほか十五個の師団もしくは旅団約二十万人の機動部隊を備えている。今後二年間で二十個の師団もしくは旅団約三十万人の機械化部隊を整える予定で、これらは台湾侵攻を目的としている。
二、台湾への脅威
(一)第二砲兵隊(ミサイル部隊):江西省に配備されているミサイルは台北を中心とする台湾北部に照準を合わせ、福建省配備のものは台湾中部と南部を攻撃範囲とし、広東省配備のものは高雄を中心とする南部を攻撃目標としている。中国の戦術および作戦は数波の集中攻撃を展開するというもので、一波ごとに約百五十基を発射すると見られる。二〇〇六年には八百基の戦術弾道ミサイルを配備すると見られているため、この時点で十時間にわたり五波の集中攻撃が可能となる。このほか二百基の対地巡航ミサイルも運用可能となり、台湾に対する重点攻撃も併用すると見られる。台湾軍の現有する対ミサイル防御能力では、これらを防ぐのは困難である。
(二)空軍:「本土防衛」が主要任務であったのが「攻守兼備」に変化している。最近特に新一代機種による作戦研究を積極的に進めており、同時に海洋での戦闘、奇襲攻撃、夜間戦闘、各軍区にまたがる戦闘支援などの演習を重ねている。これら新一代戦闘機を支援するものとして、遠距離攻撃の精度を増す兵器も増強されており、台湾の防空に対する脅威はますます増大している。
(三)海軍:台湾海峡は国際水道になっており、面積は二百四十万平方キロメートルで、毎日六百隻から九百隻の船舶が通過している。通過船舶が通信衛星を使えば、その隠密性を保持するのは十分可能であり、それらを偵察、識別するのはきわめて困難となる。水上艦ならびに航空機に加え、潜水艦を配備して総合的な偵察をしなければ、制海権の優勢は維持できない。
(四)陸軍:二年以内に整備されると見られる二十個の師団および旅団約三十万人の機械化部隊は、その機動力と特殊性から台湾にとっては大きな脅威となる。ただしそれらを運ぶには大規模な迅速輸送手段が必要となる。
二、台湾防衛の重点
中国の大幅な軍備拡大、社会を震撼させる国際テロ、さらに打ち続く自然災害などから国民の生命と財産を護り、国家の総合的な安全を確保するため、二〇〇四年下半期の主要な国防方針は、全民国防体制の強化、各種部隊の訓練強化など既定の方針のほか、優先順位を明確にし「全民総合防衛理念の強化」「危機管理構造の健全化」「軍の現代化促進」などを鋭意進める。それらの具体的内容は以下の通りである。
一、国防への国民参加拡大
国民の全民国防への理解を高めるため、国防部はテレビの定期番組や「青年日報」などの刊行物を通して郷土愛や愛国心の啓蒙活動を継続する。教育部、行政院新聞局、地方自治体を通じて市民の部隊参観、軍関係行事への参加などを促進し、国民の国防への意識向上と国防政策への支持拡大を図る。
二、全民総合防衛理念の強化
(一)国民動員による後方支援を中心とした国土安全ネットワークの機能を高めるため、関係部門と連携して緊急対応関連法を整備し、法による全民防衛動員体制を確立し、動員の迅速化、国土安全の共同保障を進める。予定している法案は「民防法」「伝染病予防法」「原子力事故緊急対策法」などで、「災害救助法」「緊急医療支援法」「国際テロ防止法」などの草案はすでに裁判所に審査を依頼している。
(二)全民総合防衛体制の効果を検証するため、本年六月から実施した「漢光演習」では中央省庁の参加をシミュレーションし、八月から十月までの「同心演習」「万安演習」では軍と地方自治体の連携により市民動員、緊急医療、テロ対策、災害救助などの緊急出動訓練をおこなった。これらは総合動員による国土防衛の能力を高めるためである。
三、危機管理構造の健全化
(一)軍の危機管理緊急出動は中国による軍事危機、国内でのテロ、災害救助などをその範囲としている。これを基礎として「全方位の安全」を確保するため「国家安全政策」に則り、軍による危機管理と即応体制能力を高める。さらに「無差別戦争」の脅威に対する防衛戦力を強化するため、民間機関との連携を緊密化し行政が市民動員の組織能力を発揮するのを支援し、各種の危機に迅速に対応し国土の安全を確保する。
(二)陸海空三軍の緊急出動体制を強化し連合作戦指揮体制を整える。最近の地震や大型台風での出動状況を教訓材料とし、陸海空三軍の連携と即応体制の確立を検討し、軍の緊急出動体制を確保する。
四、軍の現代化促進
(一)未来戦争が主流となる環境の変化に対応して台湾海峡での優勢を維持するため、軍は本年一月を期して「精鋭化計画」を進めており、すでに「国防部幕僚組織」「常備軍と予備役の並立」「後方支援体制」「ミサイル司令部」「各種部隊の構造」の調整を完了し、目下兵員数の調整による総合力の精鋭化を進めている。
(二)部隊運営の革新化を推進するため、国防組織の調整、兵力構造の調整、ハイテク技術の強化、電子戦力の強化を図る。特に人材の確保と育成および向上に努め、現代化軍隊の総合戦力を高める。
(三)中国の軍事的脅威がますます高まり、かつ緊迫化するなか、連合作戦能力を高めて有効な抑止力を維持するため、「兵器購入特別予算案」の立法院早期通過を求め、予定しているパトリオット3型ミサイル、ディーゼル潜水艦、P3C対潜哨戒機を装備し、対ミサイル防衛と制海戦力の向上を図り、国家の安全を確保する。 (以下次号)
【行政院新聞局 10月】
東京国際映画祭で見た今年の台湾映画
作品の多様な個性と監督の熱意に触れる
アジア最大の国際映画祭を誇る東京国際映画祭には毎年世界各国からさまざまな作品が集まり、なかでも若い新人監督の意欲的な作品に多く出逢えるのが同映画祭の特徴でもある。十七回目を迎えた今年は十月二十三~三十一日の九日間、例年の東京渋谷のBunkamuraに六本木ヒルズを加えた二つの会場で行われた。メインの「コンペティション」部門は三百本の応募の中から十五本がノミネートされ、アジアの今を紹介する「アジアの風」部門には昨年の倍にあたる三十四本が並んだ。
台湾の作品は今年三本が上映され、「コンペティション」部門に鄭文堂監督の『時の流れの中で』(原題:経過)、「アジアの風」部門に徐輔軍監督の『夢遊ハワイ』(原題:夢遊夏威夷)と陳正道監督の『狂放』(原題:狂放)が紹介された。
鄭文堂監督は二年前、長編初監督作品『夢幻部落』でベネチア映画祭「批評家週間最優秀新人賞」を受賞し、今回の作品は長編二作目に当たる。前作で見せた鄭監督の持ち味である静謐な世界観が、より大きなスケールで描かれている。
物語は、台湾の故宮博物院で研究助手として働くチェン(桂綸鎂=グイ・ルンメイ)と、史書の執筆者で同僚のドンハン(載立忍=レオン・ダイ・リーレン)、日本から「寒食帖」の書を求めて故宮にやってきたサラリーマンの島(蔭山征彦)の三人を軸に、それぞれが人生に欠けたものを追い求める姿が描かれている。
鄭監督はこの作品の制作動機について「昨年戦火を浴び略奪されたアフガンの博物館のニュースを見て、戦争で爆撃されたり略奪されたりする博物館が世界中にどれほどあるのか疑問に思った」と語っている。映画の中で重要なモチーフになっている「寒食帖」は、一〇八二年、中国宋の詩人・蘇東坡が皇帝の逆鱗に触れ、僻地の黄州に左遷されたときに書かれたもので、この書はその後、作者と同じ数奇な運命を辿った。清朝時代、英仏軍に侵攻され大火事に巻き込まれた後、日本に渡り関東大震災に遭遇する。東京が焼け野原となったあと瓦礫の中から偶然発見されるが、その後ふたたび転々とし、最後に台湾へ流れ着く。
ドンハンに密かな想いを寄せるチェン。幼いころ山で父親を亡くしたドンハン。会社の闘争に巻き込まれ左遷された島。三人の心模様が歴史を生き抜いた芸術作品の運命とともに鮮やかに描かれ、「人生は欠けたものがあってこそ意味をもつ」との思いが心に染みてくる映画だった。
鄭監督は家族に日本人がおり、前作『夢幻部落』では日本の風景を端々に織り込んだが、本作品は日本人俳優を起用し、より日本との関わりの深い作品となっている。昨年『藍色大門』で爽やかな高校生役を演じたグイ・ルンメイの成長ぶりや、人気俳優レオン・ダイ・リーレンの渋い演技、鄭監督のもとで出演は二回目という蔭山征彦の流暢な中国語も見所の一つとして楽しめた。
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徐輔軍監督の『夢遊ハワイ』(原題:夢遊夏威夷)は、監督初作品ながら構成と画面ともに説得力があり、素晴らしい作品である。
台湾では青年男子に二年間の兵役義務があり、厳しい訓練は自己鍛錬に役立つ反面、恋人と疎遠になり別れるケースも多い。男子にとっては辛い二年間だ。物語は、兵役満了間近の二人の青年アー・チョウ(楊祐寧)とシャオ・グイ(黄鴻升)が、不意に与えられた特別休暇を利用し出かけた東部海岸で、小学校の同級生シンシンや脱走兵クェンホーと共に過ごすなかで知る現実の厳しさや人のぬくもりを、ユーモアを交えながら描いている。
厳しい兵役生活で、いたずらと笑いをふりまくアー・チョウとシャオ・グイにとって、まじめ一筋のクェンホーはいじめの対象だった。クェンホーはグラビアの女の子を勝手に自分の恋人にして、ある日失恋したといって騒ぎ出し、挙句の果てに脱走してしまう。そんな中、アー・チョウはある日突然、シンシンが死んだ夢を見る。彼女を訪ね歩き探し当てた先は白い壁に囲まれた精神病院だった。シンシンは親の望む医学部受験の圧力に押しつぶされたのだ。
そんな四人が真っ青な空と夏の太陽が照りつける東海岸で数日を共にする。最初シンシンの破天荒な振る舞いに振り回されっぱなしだったアー・チョウは、やがてシンシンの無邪気さと笑顔の中に現実の厳しさを乗り越える力を得る。そしてクェンホーが三人のために食事を作り、恋人を引き止めたい一心で何度失敗しても花火を作り続ける姿に、アー・チョウは心を打たれる。その矢先、クェンホーが憲兵に見つかり殺されてしまう。三人は残された花火に火を点け、その日初めて夜空に華麗な眩い光が降り注いだ。
「社会と現実は厳しく醜いからこそ、私は映画で美しいもの、夢を描きたい」徐監督は上映後のティーチ・インでこう語った。兵役生活、受験地獄、東海岸―映画は台湾の社会現象や美しい自然を織り込みながら、傷つきやすい若者を温かく見守っており、その姿勢にはとても好感が持てた。
最後に、ティーチ・インで中国の記者からこんな感想が寄せられたこともぜひ付け加えたい。「『藍色大門』は中国でもとても人気があり、台湾の監督は青春映画が得意との印象が強い。この作品も中国で上映されたら、きっと評判になると思う」
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陳正道監督は今年二十三才、中原大学で学ぶ現役の大学生だ。高校時代からシナリオを書き始め、一昨年、昨年に制作した短編映画がともに台湾の金馬奨にノミネートされ、初の長編映画となる『狂放』(原題:狂放)は、今年ベネチア国際映画祭で「批評家週間賞」を受賞した。
物語は、十八歳から二十歳までの三人の若者を主人公に、反抗的なティーンエイジャーの視点から、自殺や中絶、同性愛、ドラッグなど、現代の若者を取り巻く社会問題が描かれている。そこから浮き彫りになるのは、大人になるにつれ自らではコントロールできない事柄に遭遇するもどかしさ、鬱屈、そして無力感だ。出演者は台湾でアイドル・ユニットのメンバーとして活躍する黄鴻升ら二十代の、いずれも映画初体験の若者たちだ。
本作品は制作費が九百万円、実際の撮影日数が半月のみという常識破りの映画だ。プロデューサーのチン・ウェイさんは「低予算であることと、出演者、スタッフの年齢が若いことは大きなリスクであり挑戦だった。幸い音楽や編集技術に侯孝賢らベテラン監督のスタッフの協力を得ることができ、技術的にはよいものになった」と語った。
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今年台湾映画は三本とも受賞を逃したが、いずれも監督の個性を感じさせる意欲的な作品で、それぞれの映画に対する熱意が強く感じられた。来年は三人のより洗練された作品とともに、映画に情熱を傾ける新監督の登場に期待したい。
《取材:本誌編集部・山田》
台湾観光年
最高級観光列車が登場
台湾鉄路局は来年十月の台湾高速鉄道(新幹線)の開通に対抗するため台北―知本(台東)、台北―枋寮(懇丁)間に「温泉公主」、「懇丁之星」などの観光列車を相次いで運行させ人気を集めているが、これまでの最高級とも言える観光列車が十月三十日にお目見えする。
「宝島之星」と名づけられたこの観光列車は台湾を一周するコースで、二種類のツアーが組まれており、三泊四日が二万五千元(約七万五千円)、二泊三日が一万六千八百元(約五万円)となっている。花蓮、台東、日月潭の五つ星クラスのホテル宿泊がセットになっているデラックスツアーだ。観光列車はバーカウンターを備えた食堂車と三両の客車からなり、一客車の乗客数は四十名、総数定員は百二十人。座席は三百六十度回転するリクライニングチェアのゆったりとした造りで、座席ごとに音響設備も備わっている。食堂車ではシャンパンやワインなどの酒類をはじめ、コーヒー、ジュースなど各種ドリンクが揃っており、宜蘭の羊羹、花蓮の餅などの地方の特産物は好きなだけ食べられるというサービス付きだ。トランプや将棋、カラオケなどの娯楽設備も充実しており、最高級の列車の旅を謳っている。
十月三十日の初運行は発売開始から三日間ですべて売り切れるほどの人気で、毎週一本運行される十一月分も、七~八割がすでに予約済みという。台湾鉄路局では年末年始に加え、旧正月の運行も検討している。
《台北『経済日報』10月20日》
台北築城記念パレード
一八八四年に台北城が建設されて今年で百二十周年を迎えるのを記念し、台北市では今年さまざまな記念イベントが行われている。十月二十四日には、台北に初めて鉄道を建設した劉銘伝の功績を称えるパレードが盛大に行われた。
劉銘伝は清朝時代、初代台湾巡撫として派遣され、台湾の開発に大きく貢献した。なかでも鉄道は日本より二年早く建設され、その功績は高く評価されている。
パレードは台北城の承恩門(北門)を出発し、延平南路、重慶南路を経て景福門(東門)までのコースで行われ、国内のアーティスト一万二千人余りが参加し、それぞれパフォーマンスを披露した。また台湾最古の蒸気機関車「騰雲号」の先頭車両も登場し、北門の接官亭、中山堂広場、二二八公園の三カ所には、劉銘伝が台湾入りした当時の儀式や、媽祖を祭る伝統儀式の様子が再現された。
《台北『聯合報』10月22日》
台北の藍色公路に大型船登場
台北県と市を流れる淡水河をボートで航行する藍色公路に十月十五日、百二十人乗りの大型船「藍色一号」が登場した。台北市大稲埕から淡水の漁人埠頭まで二十五㎞をノンストップ、一時間十分で運行する。
一般の中・小型船に比べて騒音が小さく、水上航行も安定しており、コーヒーラウンジや自動販売機、カラオケなどの設備も整っている。片道二百九十九元(約九百円)で、貸切りでのパーティー利用も可能という。平日は二便、休日は六便運行している。
《台北『中国時報』10月16日》
文化ニュース
「アテネの英雄」に国光勲章授与 ダブル金メダルの功績を称える
台湾の五輪参加史上初の金メダル、しかも二個の金をもたらしたアテネオリンピックの金メダリスト、テコンドー競技の陳詩欣、朱木炎両選手に、十月二十日、国光一等一級勲章が授与された。
勲章を授与した游錫堃・行政院長は「国光体育勲章制度が設立された一九八三年以来、五輪金メダリストへの授賞は初めてだ。今年は金二、銀二、銅一という史上最高の成績となった」と祝辞を述べた。
金メダリストに授与された国光一等一級勲章は、九九・九九%の純金製で約二百三十三グラム。台湾でもっとも重い勲章で、製造コストは一枚十一万元(約三十三万円)かかるという。また勲章のほか、両選手には賞金千二百万元(約三千六百万円)が授与される。分割で受領する場合は、ひと月七万五千元(約二十二万円)を生涯受け取れるという。
授賞式では、黄志雄選手(テコンドー、銀)と陳詩園、王正邦、劉明煌選手(アーチェリー団体、銀)が国光一等二級勲章および賞金六百万元(約千八百万円)、袁叔琪、呉蕙如、陳麗如選手(アーチェリー団体、銅)が、国光一等三級勲章および四百万元(約千二百万円)を授与された。
《台北『中国時報』10月21日》
台湾の蘭、日米市場で好評 台糖公司は販路拡大に意欲
ここ数年、台湾の蘭が海外市場で好評を博している。蘭を国際市場に送り出した主要企業は台湾製糖公司で、現在台南の烏樹林、渓湖、埔里、台東、大林、南靖の六カ所に生産拠点を持ち、種の栽培や生産まですべて自社の研究所で独自の開発をおこなっている。蘭の輸出は一九九七年からスタートし、現在は日米市場向けに苗を輸出している。
同社によれば、「日本で一番好まれるのは白く小さな『Amabilis』種。蘭嶼の原生種で、俗に『台湾阿媽』と呼ばれるものだ。日本向け年間数量百万株のうち、六割を占める人気商品」という。また米国市場では、最近、蘭がクリスマス用ポインセチアに続いて二番目に人気となっており、農家やマスコミからも注目を集めているようだ。同国の蘭市場千五百万株のうち、台湾蘭のシェアは現在九十万株で、今年は百万株に達する見込みだ。
一方、生花の輸出には課題も多い。欧州市場は花の需要が高いが、遠すぎるうえ気候が蘭の栽培には適さない。台糖公司では目下、中国市場への進出を計画中だが、中国と日米では好まれる花の色や需要のピークが異なるため、中国で売れ行きが悪くても日米市場にシフトしにくい。同社では販売ルートを持つ国内企業との合弁や、現地栽培システムを構築するなど、さらなる市場拡大に意欲を見せている。
《台北『中国時報』10月13日》
SARS識別システムが登場 正確な情報で院内感染防止
SARS蔓延の深刻な原因となった院内感染防止のため、医学界と情報処理の専門家らが共同で進めてきた「病状識別システム」の研究成果が十月二十一日、台北市内で行われた研究会で発表された。台北市医科大学付属医院が発案したこのシステムはRFID(無限識別技術)により患者の病状を識別するもので、腕につけた端末を通して、病歴や体温を病院のパソコンや医師のPHSで見ることができる。今後一般利用に向けて商品化する予定だ。
《台北『中国時報』10月22日》
春 夏 秋 冬
今、台湾の立法院(国会)で兵器購入特別予算案の審議が白熱している。台湾の一般年度予算の国防費は年々減少しているのに対し、中国は毎年二ケタ成長させ、あまつさえ台湾に照準を合わせたミサイルを次々と増強している。これに対し、一定の防衛力を備えようとするのが、一般会計とは別枠の兵器購入特別予算案である。内容はすでに本誌で何度か報じたように、15年間で6108億元(約1兆8000億円)を投入し、ディーゼル潜水艦8隻、PAC3ミサイル8セット、P3C対潜哨戒機12機を米国から購入しようというものである。
ここで見逃してならないのは、15年間の分割とはいえ、これだけもの特別予算を組まなければならないという状況である。周知の通り、中国は台湾に対する武力発動の可能性をコトあるごとに公言し、実際にミサイルの増強以外にも潜水艦や水上艦の近代化と増強をハイスピードで進めて台湾包囲が可能な遠洋型海軍の完成を急ぎ、空軍力もロシアから最新ミグ機を導入するなど、着々と現代化と行動範囲拡大を進めている。事態は切迫しているのだ。
もちろん台湾は中国との話し合いを強く主張している。だが話し合いを始めるには、相手に武力を軽々に発動させないだけの抑止力を持つことは必要不可欠だ。そうしてこそ、相手に飲み込まれないだけの交渉ができ、台湾海峡の平和も保てるのだ。米国は台湾への輸出にすでに同意しており、あとは台湾の議会を同案が通過するのを待つばかりだ。
日本でもかつて日米安保条約の効能と継続について、自ら護る気概がなくていざという時に米軍が来てくれるか、という基本が論じられたことがある。このことについては、日本社会ではすでに大方のコンセンサスは得られているものと思う。もちろん台湾でも中国の脅威に対する防衛強化の必要性には与野党とも一致しており、游錫堃・行政院長も「予算案の通過は防衛への国民の強い意志の表れになるのだ」と強調している。
さらに重要なのは、この予算案は台湾海峡の安定のみならず、アジア太平洋地域全体の平和のためであり、日本の国益にも合致しているという点だ。今日、もし日本を含む西太平洋ベルト地帯に台湾という強固な防波堤がなかったなら、日本の防衛コストはどれほど高くつくだろうか。東アジア情勢は今、軍事的にも日本と台湾は利害を一つにしているのだ。共に護る気概があってこそ、米軍も支援してくれる。そこに日台の連携があれば、その効力はさらに増すであろう。
(K)
お知らせ
二〇〇四年度日本アジア航空 第19回中国語スピーチコンテスト
●参加資格:中国語に興味を持っている日本国籍の大学、短大、専門学校生(ただし以下を除く)①両親の一方または両方が中国語を母国語とする。②日本に在住していない。③海外で中国語による教育を半年以上受けた。④中国語圏で通算半年以上在住。⑤二十五歳以上。⑥大学院生。⑦過去の本大会の優勝者。
●応募方法:以下を送付先に郵送①演題「中国語と私」または「台湾と私」のいずれか一つを選び、中国語で書いた四分以内のスピーチを前提とした自作原稿(未発表に限る)。②スピーチ原稿の簡単な日本語要約(120字程度)。③日本語で郵便番号、氏名、住所、学校、学部名、学年、生年月日、自宅電話番号、詳しい中国語学習歴、海外在住歴など。
●送付先:東京、大阪、沖縄の各大会事務局 ※締切:11月下旬
●問合せ:日本アジア航空http://www.japanasia.co.jp