太平島は岩礁ではなく島嶼、馬英九総統が国際記者会見で説明
「南沙諸島の太平島は島嶼であり、岩礁ではない」という事実について、国際社会の理解が深まるよう、中華民国(台湾)政府は3月23日、内外のメディア代表を現地への取材訪問に招いた。同夜、馬英九総統は取材訪問団が台北に戻った後、松山空軍指揮部において、国際記者会見を開き、中華民国の太平島の主権についての立場を重ねて表明した。以下は記者会見における馬総統のあいさつの要旨である。
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我々が国内外のメディアによる太平島訪問を特別に行った最も重要な目的は、「百聞は一見に如かず」(To see is to believe)のためであり、メディア各位を通して「太平島は島嶼(island)であり、岩礁(rock)ではない」という事実を共に検証したい。我々は、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所における本案の仲裁裁判法廷とフィリピン当局および弁護団に、太平島は「人間が居住および独自の経済生活を維持できる」という諸条件を十分に満たしており、『国連海洋法条約』第121条の「島嶼」の定義に完全に合致していることを明確に理解するよう願っている。したがって、12カイリの領海のほか、我が国は太平島については、200カイリの排他的経済水域(EEZ)と大陸棚を主張する権利がある。これについて、私は以下の10項目に分けて説明する。
先ず、太平島は過去、現在いずれにおいても人が居住し、経済活動に従事してきた事実がある。19世紀においては、英国人が1879年の海軍資料『The China Sea Directory』(中国海航行指南)の中で、我が国の漁民が太平島でナマコや亀甲を集め、生計を立てていたことが記録されている。20世紀初頭には日本人が同島でリン鉱石を採掘し、水産品の缶詰工場も設立しており、現在も同島には当時の日本の会社が残した記念碑がある。我が国は1946年に太平島の主権を回復した際、同島に中国式の寺や廟の遺跡があるのを発見した。
1956年より政府は駐在員を派遣して以来、今日までの60年あまりを通して、太平島は人が居住し、経済生活に従事してきたという具体的事実を十分に証明してきた。
次に、フィリピンは太平島に居住しているのはいずれも軍人であり、民間人ではないため、人の居住には含まれないと主張している。これは『国連海洋法条約』第121条に対する曲解である。この条項では島嶼は必ず「人間の居住を維持」(sustain human habitation)ができなければならないと規定しており、居住の事実の条件がありさえすれば、それで十分である。住民の身分、職業、性別、年齢、エスニックはいずれも問われていない。この条項に軍人は「人間」に含まれないと述べてはいない。さらには現在、同島に駐留しているのは軍人が中心ではなく、行政院海岸巡防署、医療従事者、科学研究者らであり、「人間の居住および経済生活」の定義と完全に当てはまる。
第3に、フィリピンは同島での一部の物資は外地から運ばれてきたものであり、これは同島での資源では自給自足できないことを示すものであると批判しているが、これも詭弁である。太平島の面積は0.51平方キロメートル(51ヘクタール)であり、島には豊富な植生、作物、畜産があり、十分に自給自足できる。しかし、より質の良い生活のため、また、同島の天然資源の過度な消耗を回避するために、島外から運び、その長所を維持している。これは我々が太平島を「低炭素の島、生態の島」として構築する永続的な環境保護の理念と一致するものであり、太平島は断じて「人間が居住し、その経済生活を維持する」能力がないというものではない。
第4に、太平島で人間の居住が維持できる重要な要素の1つは、同島が南沙諸島の数百の島礁の中で、豊富な天然の淡水を有する島嶼であり、尚且つその水質もきわめて良好であることだ。我々は地質学上の根拠から太平島形成の歴史を説明するものであり、太平島には豊富で安定し、海水に汚染されていない地下水の層があることが証明されている。現在、同島で使用している4つの原生井戸の一日当たりの出水総量は65トンに達する。水質が最も良好な「5号井戸」の総溶解固形分(total dissolved solids)は418~427mg/Lであり、国際的に有名なミネラルウォーター「エビアン」の330mg/Lに近いものである。この井戸の出水量は一日当たり3トンに達し、1,500人が一日に必要とする飲料水を供給できる。「5号井戸」の塩分濃度は1‰を下回り、そのまま飲用でき、その他の3つの井戸の塩分濃度も1~3‰内であり、いずれもが海水塩分濃度の33~35‰を遥かに下回っている。
第5に、歴史的にも太平島の天然の淡水に関する記載が数多くある。前述の英国人は1879年の『The China Sea Directory』の中で、太平島には中国漁民が居住し、淡水の井戸があることにも言及しており、「島の井戸水の質はその他の場所より良質である」と記している。1937年に台中州の平塚均・技師が太平島で調査し、「島の飲料水は豊富であり、漁船への給水や陸上の数々の用水には不足する心配はない」と報告した。1946年、我が国の海軍艦隊が南沙諸島に駐留し調査を行い、1947年の調査報告書の中でも「島にはいくつかの淡水井戸があり、水質も良好」と記した。1994年に我が国の研究者、陳一鳴氏による『南シナ海および太平島海域水質調査』の中でも、太平島の2カ所の淡水源は「一般の河川あるいは湖水と比べ、水質は比較的良好な水源に属している」と記載した。
第6に、フィリピンは1994年に我が国の研究者が太平島に関する植物学のレポートの中の一言を以って、太平島の水は人の飲用に適さないと認定しているが、1994年の太平島における同一行程の調査の中で、陳一鳴氏が行った太平島の井戸水の専門的水質検査を意図的に無視している。フィリピン側の弁護士は真相を隠そうとしており、仲裁員をミスリードしようとするものだ。植物学者のレポートは植物に対するものであり、水質専門家のレポートこそが淡水に対するものであるのに、思いもよらずフィリピンは植物学者のレポートを用いて水質学者のレポートを否定しようとしたのであり、誠実なやり方と言えないのは明らかである。
第7に、太平島は人間が居住し続けることのできる重要な要素の2つ目は、この島の土壌が約一千年かけて自然形成された肥沃な土壌であることだ。表土の厚さは20cmに達し、土壌の粒子構造は、豊富な有機物を含んでいる。島の内縁の土壌の深さ20~40cmは鳥糞石層となっており、十分な養分を原生植物に与えることができ、農作物の生産にも使用できる。つまり、太平島の土壌は、フィリピン側の弁護士が主張するようなサンゴ礁が風化して形成された耕作できない岩砂などでは決してなく、当然ながら外地から持ち込んだ土でもない。
第8に、太平島の自然風土の条件がきわめて良好であり、島の原生植物は108種に及ぶ。高さが20m以上、樹囲が100cm以上(最大で907cm)、樹齢100歳以上(最高で150歳)の大型熱帯高木は147株あり、太平島を遠くから眺めると、海上の森林公園のように見える。島には原生の椰子、パパイヤ、バナナなどの果物が豊富に実り、四季を問わず食用に採集できる。そのうち椰子は年間約1,500個の実が成り、パパイヤとバナナの年間収穫量はそれぞれ約200~300kgに達する。これらの野生作物および周辺海域で生育する魚類は、島で人間が基本的な生活を維持していくのに十分な量である。
第9に、島の駐在員は太平島の肥沃な水と土を利用して、「開心農場」(Happy Farm)を開設し、20種余りの野菜や果物を栽培している。一年の四季を通してヘチマ、サツマイモ、ニガウリ、ヒョウタン、トウガン、スイカ、カボチャ、トウモロコシ、オクラ、ツルムラサキ、セロリ、アスパラガス、ハクサイ、キャベツ、バジル、サツマイモの葉、トウガラシ、ダイコンなどが栽培されている。家畜については、鶏(129羽)、ヤギ(14頭)、警察犬(6匹)などの動物が飼育されている。イヌは夜間の警備に用いられ、鶏、ヤギ、鶏卵は食用に利用でき、島の生活の需要を満たしている。島の住民は毎日食するサツマイモ、鶏肉、卵、魚、山羊肉、野菜、果物など多くの食材は現地で生産されたものである。
第10に、フィリピン側は太平島では稲作が行われず、すべてのコメが台湾から運ばれているので島で長期的に人間が生活する条件を満たしていないと批判するが、このような主張は極めておかしい。なぜなら、稲作するかどうかは一種の選択の問題であり、栽培しようとすればできないことはない。但し、より多くの水と土を消耗することになる。コメを栽培しなくても、サツマイモではダメなのか? ジャガイモではダメなのか? コメを食べなければ生きていけないのか? 台湾からコメを運び込んだら、太平島が島でなくなるのか? 香港のヴィクトリア島とシンガポールは、コメを主食とする島であるが、いずれも稲作は行われておらず、コメはすべて輸入であるが、それをもってこれらは島ではないと言えてしまうのか?
最後に、マスメディア記者の皆様には本日、実際に太平島に上陸して、太平島が人類が居住でき、なおかつ経済生活を維持できる島であり、『1982年の国連海洋法条約』第121条第2項の規定に基づく200カイリの排他的経済水域および大陸棚の権利を有することを見ていただいた。フィリピン側が主張する一連の荒唐無稽な理由は、国際仲裁裁判所の裁判官に「太平島には水がなく、土もなく、一人も自給生活することができず、すべての物資を外地からの補給に頼っている」と誤解させ、領海以外のその他の海洋の権利を享受できないようにと企図するものであるが、これらの主張には根拠がなく完全に事実に反するものである。
フィリピンが何度も事実でない談話を発表するのは、もしかしたら太平島の歴史や地理に対する研究が不十分なのかもしれない。そもそも直接上陸して見たこともないのだから。いま私は中華民国総統として、国内外の主要メディアを通じて、フィリピン政府が代表または弁護士を派遣して太平島を参観訪問することを正式に招待したい。我々は同仲裁裁判所の5名の裁判官が実際に太平島に上陸して「実地訪問」(site visits)することを歓迎する。太平島に淡水があるかないか、農作物が生産できるか、鶏やヤギの飼育ができるか、人間が居住し経済的生活が維持できる島であるかどうかを彼らの目で実際に見てもらいたい。
中華民国が管理する太平島は、「平和と救難の島、生態の島、低炭素の島」へと構築しようとするものであることを改めて表明する。一切の行為はいずれも『国連海洋法条約』などの国際規約を遵守しており、地域の緊張をもたらすものではないのみならず、米国が呼びかけている「3つの停止原則(three halts)」(海を埋め立て陸地化の停止、大規模な土木補修工事の停止、軍事化の停止)にも抵触していない。我々に元来いかなる軍事目的もなく、2000年からはそれまでの海兵隊から行政院海岸巡防署の人員の派遣に切り替えており、海を埋め立て陸地化しておらず、従来の施設を更新した以外は、新しい施設の増設もない。したがって、中華民国の「太平島の経験」は、南シナ海管理の最良の範例であり、国際メディアが注目する価値のあるものと言えるであろう。
その他にも、1つ重要な報告がある。それは、中華民国国際法学会の南シナ海ワーキンググループが、太平島の法的地域について、常設仲裁裁判の法廷に提出する「法廷の友(法廷助言人)」(Amicus Curiae)の意見書の最新版を完成させたことだ。これは、非当事者が利害に関わることから、仲裁あるいは訴訟について提出する法律上の意見書であり、フィリピンが太平島の法的地位に挑む各種の誤った主張について、逐一詳細な実例を挙げて反論し、誤りを明確に正している。現在、この文書はすでにオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に送られており、5名の裁判官が太平島に対し正確に認識する上でプラスとなり、それにより国際法違反ならびに我が国の権益を損なう仲裁結果が出ることを回避できるであろう。この文書の内容は、同会のウェブサイト上で取得できる。
【総統府 2016年3月23日】
写真提供:総統府